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社説・コラム

核軍縮 現実路線を確認 「広島ビジョン」と言えるのか

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 先進7カ国(G7)の首脳たちが19日に合意した「広島ビジョン」は、サミットでは初の核軍縮に特化した文書だ。それ自体は評価すべきだが、肝心の中身は自分たちの核保有・核依存を堅持したに等しく、被爆地広島にとって受け入れがたい。

 広島ビジョンは岸田文雄首相がかねて説く「77年間に及ぶ核兵器の不使用の記録の重要性」を強調。G7首脳を含む20カ国・地域(G20)が「核兵器の使用と脅しは許されない」とした昨年の「バリ首脳宣言」を想起するとした。その上で「ロシアのウクライナ侵略の文脈」で、核使用の威嚇を非難する。

 核のどう喝に走る国を指弾するのは当然だが、G7メンバーの米英仏の核は不問に付している。4月のG7外相会合を踏襲し、核兵器は「防衛目的のために役割を果たし、戦争および威圧を防止すべき」と主張。核兵器は役に立つ、核抑止は必要―。そう再確認した形だ。

 また、岸田首相が昨年発表した「ヒロシマ・アクション・プラン」に沿い、「核兵器数の全体的な減少の継続」や核拡散防止条約(NPT)体制の重視などを訴える。これも、2000年のNPT再検討会議で核兵器廃絶の「明確な約束」に合意したことを思えば、控えめに過ぎる。英国は核保有の上限数設定を引き上げ、各国とも核戦力の近代化に余念がない。

 核保有・依存の当事国の責任感が伝わらず、「廃絶」の文字もない。非政府組織(NGO)ピースボートの川崎哲(あきら)共同代表は「内容が弱い、にとどまらない。どうしようもない」と断じる。20日に発表した首脳声明でも、「核兵器なき世界」への努力をうたいつつ、あれこれと条件を付した。

 ロシアや、核を含む軍拡に走る中国の横暴を許してはならないからこそ、あらゆる核保有も核依存も否定する核兵器禁止条約の意義は大きいが、広島ビジョンでは無視した。首脳たちが19日に平和記念公園を訪れ、何を感じたのかにも触れていない。

 このビジョンに被爆地が賛同したと世界に受け止められれば、ヒロシマの訴えは説得力を失うだろう。広島には今、拡大会合に出席するインドも含めれば世界の核兵器の半数に及ぶ推定で6千発余りを手中にする当事国の首脳たちが集っている。核兵器のない世界を目指す気はあるのか、被爆者をはじめとした市民の厳しい視線にさらされる。

(2023年5月21日朝刊掲載)

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