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社説・コラム

天風録 『非暴力の像』

 じっと祈りをささげているかのようだ。それでいて迫力を感じる。インドの宗教家で政治指導者だったマハトマ・ガンジーの胸像である。きのう平和記念公園近くの河岸に、姿を現した▲モディ首相がG7広島サミットに招待されたのをきっかけに、広島市に寄贈した。非暴力・不服従を掲げて、母国を独立に導いた先人の像。自らのツイッターに深々とこうべを垂れた写真を載せ、「非常に重要なメッセージを伝えるもの」と添えた▲ガンジーは原爆を強く非難した。真実と非暴力の前には原爆はかたなしである―。投下された半年後に、発表した論文でそう記した。核兵器は人道に訴えてこそ滅ぼせると、早くから洞察した姿は、被爆地と共鳴する▲モディ首相はどう思っているのだろう。広島で25年前の5月に思いをはせてもらいたい。既に核兵器保有国だったインドが核実験を強行し、対立していた隣国のパキスタンが核保有国となる結果を招いた。核の連鎖で今も世界は恐怖におびえ続ける▲G7首脳がまとめた核軍縮の「広島ビジョン」を手に考え込む。被爆地でガンジーに代わり訴えるリーダーはいないのか。分断より対話を、抑止力ではなく非暴力を、と。

(2023年5月21日朝刊掲載)

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