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社説・コラム

G7サミット ゼレンスキー氏広島入り [識者談話]

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)に出席するため、ウクライナのゼレンスキー大統領が20日、広島入りした。被爆地訪問を、どう受け止めればいいのか。核問題や国際政治などを専門とする学識者3人に聞いた。

被爆地願い 逆行懸念

長崎大核兵器廃絶研究センター 中村桂子准教授(核軍縮)

 広島は核兵器廃絶と非戦を訴えてきた。その地で戦時下にあるウクライナの大統領が「核使用は絶対に許されない」「ウクライナ戦争の早期解決を」と声を上げれば、説得力は高まるだろう。

 被爆地の訴えが多くの人々の心を動かしてきたのは、「どの国の核も、どんな戦争もいけない」という普遍的な内容だからだ。ロシアの蛮行は当然ながら糾弾されるべきだが、G7の核保有や「核の傘」は肯定し、ロシアや中国が核を持つのは「悪」とみなすという単純な二元論では、強いメッセージとはならない。

 それどころか、広島サミットではウクライナへの戦闘機や武器供与が議論されるという。持続的な平和という被爆者の願いとは全く逆の方向に進むことになる。ロシアは一層反発し、かえって解決を難しくするだろう。

 19日に発表された核軍縮に関する「広島ビジョン」は残念ながら、G7側の核保有を「防衛に必要」と肯定したままだった。被爆者の期待を裏切り、G7という枠組みの限界を見せつけた格好だ。ゼレンスキー氏の電撃的な被爆地訪問もメッセージの発し方によっては意味を失いかねない。(聞き手は編集委員・田中美千子)

法による支配 世界へ

一橋大国際・公共政策大学院 秋山信将院長(国際政治)

 ウクライナにとっては、インドなど招待国を含め世界に支持を広げる好機だ。ゼレンスキー氏は広島サミットに先立ち、ロシアに中立的な立場をとるアラブ連盟の首脳会議に参加したばかり。G7からより強力な支援を引き出すとともに、世界各国に理解を浸透させる狙いがあるのではないか。

 G7側にもゼレンスキー氏を迎えることは意義深い。グローバル・ガバナンス(世界統治)への責任をG7は負う。ロシアの侵攻を受けているウクライナの大統領とじかに意見を交わし、非人道的な攻撃に断固たる姿勢を示すことで、その役割が果たせる。

 G7が重んじる法による支配の価値をあらためて世界に発信する場にもなる。ロシアの振る舞いは国際法に違反する。ウクライナで横行する子どもの連れ去りも法の支配に反し、国際社会が目指すべきガバナンスの在り方とは相いれない。

 メディアの注目は一気にゼレンスキー氏の広島訪問に移るだろうが、サミットで発表した核軍縮に関する「広島ビジョン」をフォローアップする必要がある。G7をはじめ国際社会はこのビジョンを踏まえ、核軍縮へ行動していくべきではないか。(聞き手は小林可奈)

威信衰退 印象づける

広島市立大広島平和研究所 加藤美保子講師(現代ロシア外交)

 広島サミットには、グローバルサウスを代表する新興・途上国や地域機構の議長国が参加する。「拡大G7」と呼べる様相だ。世界の注目を集めている。その場に来ることを決めたゼレンスキー氏には、三つの狙いがあるとみている。

 まず、G7首脳にじかに戦況を説明し、ロシアへの反転攻勢に必要な武器支援の拡大や継続的な支援の保証を得ること。核の威嚇を受ける当事国として、被爆地から核兵器を使わないよう訴えたい思いも強いのだろう。さらに、欧州という枠を超えた団結を求めたい思惑がありそうだ。

 ロシアはかつて、国連安全保障理事会とG8メンバーであることを「大国の証し」とし、地域機構への参加を重視してきた。ゼレンスキー氏の広島サミット参加は、ロシアの国際的な威信と地位が崩れかけていることを世界に印象づけることになる。

 一方、G7は核軍縮の具体策を見いだせずに、ウクライナへの武器支援拡大を決めれば世界的な軍拡を招く恐れがある。ロシアに対抗するため、短期的に大規模な軍事作戦を行う必要があるとの論理は理解できるが、判断を誤れば核使用の可能性も高まると危惧する。(聞き手は宮野史康)

(2023年5月21日朝刊掲載)

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