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鱒二未公開書簡 研究者が出版 福山大・青木教授ら 同級生宛て171点 作家目指す強い志 記す

 福山大の青木美保教授(日本近代文学)と兵庫教育大の前田貞昭名誉教授(同)が、福山市加茂町出身の作家井伏鱒二(1898~1993年)の書簡をまとめた「井伏鱒二未公開書簡集 ある級友への手紙」を出版した。旧制福山中(現誠之館高)の同級生に宛てた手紙が中心で、名声を得る前の若き日の様子や心模様がうかがえる。

 書簡は、井伏が18歳だった1917年から80年代後半にかけて同中の同級生だった故高田類三さん(新市町)に宛てた手紙とはがきを中心に計171点がある。10~20代の書簡が多い。

 早稲田大への進学のため、上京して間もない17年11月の手紙には「英語がくるしい。今頃やつとフランスの片言が云(い)へる様になりました」と語学に励む様子を伝え、小説を書くための資料を高田さんに依頼していることも記してある。

 教授とのトラブルから同大を休学する直前の21年9月には「えたいのしれない圧迫」などと窮状を訴える一方、「書くことだけは止(よ)し度(た)く思ひません」と作家になる強い志をのぞかせる。

 書簡は2014年に、同市内に住む高田さんの長男が自宅で見つけ、翌15年末に青木教授へ研究を託した。前田名誉教授は「これまでブラックボックスだった井伏の苦悩や心情に迫ることができる」と強調。青木教授は「高田さんは心の中でとても大切にしていた仲間だったのだろう」と推察する。

 A5判411ページ、6600円。通販サイト「アマゾン」などで販売している。(猪股修平)

(2023年5月21日朝刊掲載)

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