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社説・コラム

ゼレンスキー旋風 いいのか 編集委員 東海右佐衛門直柄

 被爆地の空気が一気に変わった気がする。ウクライナのゼレンスキー大統領が20日、先進7カ国首脳会議(G7サミット)に出席するため広島市に到着した。「歴史的な訪問」。欧米メディアでは、そんな論調も既に出ている。

 しかし何だか心落ち着かない。主役が塗り変わるような気がして、もやもやする。ゼレンスキー氏の被爆地訪問は世界中の注目を集めつつある。ただ「ゼレンスキー旋風」のサミットでいいのだろうか。

 同氏の狙いは何か―。ロシアとの戦争が泥沼化する中、G7各国に長期支援を取り付けたいのだろう。サミットには、インドなど「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国も招待国として加わっている。ロシアとの関係を維持する国もある中、協力を直接呼びかけたいに違いない。

 さらに今ウクライナを巡る焦点の一つが、米国の戦闘機F16の供与だ。米国はこれまで、ロシアを刺激するとして認めてこなかったが、バイデン大統領は19日、同戦闘機の供与へ向けウクライナ軍パイロットの訓練を支援すると表明した。ウクライナとしては、さらなる武器支援を求めたいのだろう。

 ただ、戦争当事国の一方への軍事協力や支援拡大を決めることが広島サミットの意義だろうか。広島は、核兵器の廃絶と恒久平和を訴えてきたはずだ。軍事的結束の舞台装置として被爆地が使われてしまわないか懸念がある。

 むろん、ウクライナはロシアによる核の威嚇を受け続ける被害国であり、被爆地としても連帯が要る。ゼレンスキー氏は、核兵器の恐ろしさを被爆地から発信し、非人道的な兵器は廃絶すべきだと世界に訴えてほしい。

 併せてG7各国も自らの責務を胸に刻むべきだ。対ロシアへの結束をアピールすることで、被爆地で何かを達成したと勘違いされては困る。核兵器使用のむごい結末を見つめ、核軍縮への具体的行動へつなげてもらいたい。それが広島サミットの意義なのだから。

(2023年5月21日朝刊掲載)

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