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「核なき未来 着実に進む」 「意義」これから問われる 論説主幹 岩崎誠

 さまざまな言語でリポートするテレビ記者たちの声が響く。G7広島サミットを総括する岸田文雄首相の会見映像を国際メディアセンターで見た。目を向ける海外記者は多くない。ウクライナのゼレンスキー大統領の動向に、より関心があるように見えた。広島開催の焦点のはずの核兵器の問題は埋没した感もある。

 成果をどう評価するか。ウクライナに中国、気候変動、ジェンダー、人工知能(AI)、グローバルサウス。さまざまなキーワードで賛否が論じられよう。少なくとも被爆地からすれば期待外れなのは確かだ。

 核兵器の非人道性を直視し、廃絶へ向けた具体的な一歩を踏み出してほしい―。その願いは実らなかった。G7首脳が「広島ビジョン」の名で出した核軍縮の文書は何の新味もなく、核抑止に固執する中身だったことは本紙が伝えた通りだ。

 「歴史的なサミット」と自賛した首相は足元の批判を意識したのか、会見では核の問題に相当な時間を割いた。「核兵器のない世界という理想」という言葉を使い、それに向けて「現実的な歩みを進めよう」と呼びかけた。だが現実とは何か。理想とは何なのか。

 首相の言いぶりに違和感を抱いた。「われわれの子どもたち、孫たち、子孫たちが核兵器のない地球に暮らす理想」。生きているうちの廃絶を願う被爆者をはじめ、首相自身を含む今の世代の間は核はなくならない。そんなふうに決めてかかってはいないか。

 オバマ米大統領が2009年のプラハ演説で掲げて以降、国際政治でしばしば使われる「核兵器のない世界」。軽々しく語るだけで前に進まない状況が、サミットで露呈してしまった。

 晴れ舞台のサミットを無事終えた首相の高揚感と、私たちのやるせなさの落差は大きい。ただ1年前の開催決定からの歩みも含めて考えると、このサミットには意味があったと思う。

 例えば若い世代を巻き込んだことだ。この3日間に向けて、被爆地の内外でSNSも駆使して核にとどまらず多様な手法で平和を発信し、世界が直面する課題を真剣に考えた。その営みは無駄にならない。

 要はこれからだ。参加国の指導者も市民もこのサミットの功罪を検証し、次のステップに生かすべきだ。その上で明るい未来への転機にしてこそ、本当の意味で被爆地で開いた歴史的な意義は確かなものになる。速やかな核兵器廃絶を、私たちは決して諦めない。

(2023年5月22日朝刊掲載)

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