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社説・コラム

社説 広島サミット閉幕 具体的な行動求められる

 核兵器をなくす道筋と、ロシアによるウクライナ侵攻を止める方法を探り、今後の世界秩序を考える。先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に課せられたテーマは重かった。

 だからこそ、過去のことだと言い切れない核の悲惨を語り継いできた被爆地広島が開催地に選ばれた。ウクライナのゼレンスキー大統領の訪日参加など異例ずくめだったが、まずは無事に終わったことを評価したい。

 閉幕を前に岸田文雄首相は平和記念公園で記者会見し、「われわれには核兵器のない世界を追い求め続ける責任がある」と決意を示した。しかし討議の成果である首脳声明は具体的な道筋を示したとはいえない。この落差を埋め、どう具現化していくか。議長として、次の一歩を踏み出す岸田首相の指導力と各国首脳の覚悟が問われる。

 ロシア・プーチン大統領の核の威嚇に直面するゼレンスキー大統領が、核なき世界への結束に加わった意義は小さくない。首脳声明や核軍縮に関する「広島ビジョン」は核なき世界を究極の目標とし、軍縮・不拡散で「現実的で、実践的な、責任あるアプローチを探る」とした。

 だが原爆被害の実態に触れた首脳たちの指針として胸を張れる内容だろうか。G7メンバーの米英仏の核保有を不問にしたままでは説得力を欠く。

 核抑止論からの脱却に向けた核兵器の役割を低減し、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効に向けて米国などに批准を迫るべきだった。非保有国との溝はさらに広がると肝に銘じてもらいたい。

 首脳声明は、G7が重視する「法の支配」に基づく国際秩序を考える上で、グローバルサウスと称される新興・途上国との連携の強化を表明した。この中には非保有国が多く含まれる。

 ウクライナ支援や対ロシア制裁の強化にも新興・途上国の協力が不可欠である。こうした国々の多くはロシアを国際法違反とみるが、G7の制裁に呼応する国は限定的だ。何より一刻も早い戦闘の終結を求めている。

 G7対ロシア・中国という対立をあおることにならぬよう、岸田首相が掲げた「分断から協調への歴史転換」に向けた取り組みが求められる。

 その点で、気候変動や食料問題、新型コロナウイルスなどの感染症などのテーマが新興・途上国の支援を重視する内容となったのは当然だろう。人工知能(AI)への対応やジェンダーも国際社会の協力がなければ取り組めない課題だ。

 中国への対応を巡っては、自由で開かれたインド太平洋の重要性を改めて認識し、力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対すると確認した。

 中国が独自にロシアとウクライナの仲介に乗り出している点に関してはロシアの即時・無条件撤退を迫るよう要求した。同時に「建設的、安定的な関係を構築する用意がある」とも記述した。国際秩序の再構築に向けて中国との対話は不可欠だ。

 市民サイドから政策提言をした「C7」のサミットの評価は「具体策を欠く」とやはり高くない。G7という枠組みの限界も指摘される。核軍縮など合意した声明を具体化する見通しを示し、検証する仕組みを設けることが、広島でサミットを開いたG7の最低限の責任である。

(2023年5月22日朝刊掲載)

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