×

ニュース

ウクライナに和平を ゼレンスキー氏 結束強調 平和公園訪問 広島サミット

 被爆地で刻んだ歩み、発した声は和平を手繰り寄せるのか。ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)に出席し、平和記念公園(中区)も訪れた。ロシアによる侵攻と核兵器使用の威嚇にさらされる中、演説では国際社会の結束と支援の必要性を強調。ウクライナからの避難民や出身者たちも「大切な日になった」と平和への願いを強めていた。

 午後7時25分過ぎ、ゼレンスキー氏は黒いトレーナー姿で平和記念公園内にある広島国際会議場の演台に立った。「人類の歴史から戦争をなくさないといけない」とし、「ロシアへの勝利とその後の平和が夢だ」と国際社会の結束を求めた。服の胸にはアルファベットで「ウクライナ」の白い文字が躍っていた。

 30分を超す熱弁。「私たちの考えていることを言葉にしてくれた。いい首脳会談になったのだろう。21世紀にこんな戦争はいらない」。そう語ったのはドネツク州から三次市の親戚を頼り、一家5人で昨年春に避難してきたディミトル・ブワイロさん(39)。スマートフォンで母国のリーダーの言葉を確認し、「早く戦争が終わり、復興するウクライナを信じている」と力を込めた。

 戦時下で広島を電撃訪問した姿勢そのものに、ウクライナゆかりの人々は感謝と歓迎を口にした。平和記念公園近くのおりづるタワー(中区)では避難民や広島県在住の出身者たち34人が記者会見。「広島ウクライナ人会」のホーチナ・アナスタシヤ代表は「昨日は眠れなくて気持ちがドキドキした。世界のリーダーが広島に集い、そこにゼレンスキー大統領が加わったことで、私たちにとって大切な日になった」と声を弾ませた。

 「ウクライナでは今この瞬間も、罪のない子どもたちが命を落としている。世界からのサポートをお願いしたい」。そう訴えたのは安佐南区の音楽家ホンチャリック・ナターリヤさん(48)。「世界のリーダーが力を合わせ、怖い核兵器を使わせないようにしてほしい」などの声も次々と上がった。

 ウクライナの人たちは国旗を持って全員で国歌も斉唱。戦時下の故郷を思い、涙ぐむ人もいた。その後はおりづるタワーの展望台から、平和記念公園を訪れた大統領の姿を探した。

 一挙一動が世界のメディアに注目される中、精力的に各国の首脳と会談を重ねたゼレンスキー氏。その手応えは、移動する車内から沿道に向ける表情の変化でうかがい知れた。広島入りした前日は硬い表情が目立ったが、この日は車の窓越しに何度も手を振り、笑顔で応えた。「応援する気持ちを伝えたい」と沿道に詰めかけた市民からは「少し余裕が見えて安心した」との声も聞かれた。

 平和記念公園を去った後、ゼレンスキー氏は自らのインスタグラムに原爆慰霊碑に献花した動画とともに、こう投稿した。「放射能で世界を脅迫する権利は誰にもない」

(2023年5月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ