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連載・特集

広島サミットを終えて <1> 被爆地開催

 広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が幕を閉じた。地元選出の岸田文雄首相が議長を務め、核兵器保有国の米英仏印を含む世界のリーダーが集った19~21日の3日間。被爆者たちは核兵器廃絶へ一歩を踏み出すよう願い、見守った。かつてない厳戒態勢に、市民は不便を強いられつつ、広島の魅力発信の好機と期待した。そして、ウクライナのゼレンスキー大統領が電撃参加した。初の被爆地サミットの成果と今後の課題をみる。

首脳つづった言葉に望み

核なき世界の起点に

 22日朝、原爆資料館(中区)の前に、入館を待つ外国人観光客たちの行列ができていた。平和記念公園の立ち入りが規制された18日以来、4日ぶりの開館。オーストラリアから訪れたブライアン・グラッツさん(61)は見学後、「遺品の数々から核被害のむごさを感じた。世界の政治指導者が来るのは大切だ」と心を揺さぶられた様子だった。

 G7と欧州連合(EU)の首脳たちが館内に足を踏み入れたのは、サミット初日の19日だった。最後に米国のバイデン大統領が到着し、そろっての滞在時間は約40分。7年前、現職の米大統領として初めて訪れたオバマ氏より30分ほど長い。今回は、被爆者の小倉桂子さん(85)=中区=の体験も聞いた。

白いシート覆う

 ただ、原爆投下国の米国への配慮からか、報道陣の取材は政府にシャットアウトされた。ガラス張りの東館1階も白いシートで覆われ、館内の様子をうかがい知ることができない。視察後、原爆慰霊碑の前に立った首脳たちは厳粛な面持ちを見せたが、一体どんな思いを抱いたのか―。

 数少ない手がかりの一つが、20日に公開された芳名録だった。核超大国を率いるバイデン氏は「核なき世界」の実現を誓っていた。「世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう。信念を貫きましょう!」

 「心と魂を込めて言えることは、繰り返さないということ」(英国のスナク首相)「平和のために行動することだけが、私たちに課せられた使命」(フランスのマクロン大統領)…。やはり核保有国である英仏のトップが刻んだ言葉にも覚悟がにじみ、被爆地開催の意義が示された。

核禁条約触れず

 裏腹に、首脳たちがその夜に発表した特別文書は国際政治の冷徹さを見せつけた。核軍縮に関する「広島ビジョン」。ウクライナ侵攻を続けるロシアの核使用や威嚇は許さないと断じたが、G7の核は「防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、戦争と威圧を防止」すると正当化した。核兵器禁止条約には触れてもいない。

 長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授は「核保有国と、その核に頼る国からなるG7の枠組みで核軍縮を語ることの矛盾が、色濃く出た」と指摘する。

 ヒロシマ、ナガサキは訴えてきた。あらゆる核は絶対悪であり、地球からなくしてほしいと。国内外で証言活動をしてきた森下弘さん(92)=佐伯区=は「私たちは待てない。だから広島開催に期待したのに、何一つ踏み込んでいない」と嘆く。

 3日間の会期中、拡大会合を含めれば、核保有4カ国を含む16カ国の首脳が被爆の実態に向き合ったのは一つの成果だ。そのヒロシマの声を胸に刻み込み、核兵器も戦争もない世界へ行動する起点にしてもらうことで、真に歴史に残るサミットになる。(編集委員・田中美千子)

(2023年5月23日朝刊掲載)

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