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社説・コラム

天風録 『広島とバフムト』

 市中心部などあちこちで通行止め―。G7広島サミットに伴う交通規制に閉口した人は多いだろう。だが各国首脳の車が通る際は、一目見ようと沿道に人垣ができた。手を振ってくれた、目が合った―と歓声も上がった▲中でも大勢を集めたのはウクライナのゼレンスキー大統領。手を振り、カメラを向ける平和な市民と街は、大統領の目にどう映ったのだろう。広島のように祖国の街もいつか必ず復興させる。そう決意したに違いない▲「全てが破壊された。街は今、われわれの心の中にだけある」。東部の激戦地バフムトについてバイデン米大統領に説明したという。その街を原爆資料館を見学して思い起こしたようだ。「広島の写真はバフムトに似ている」。展示の印象を語った▲同じ日、侵攻していたロシアはバフムト制圧を発表した。「街を解放できた」とプーチン大統領も祝福したという。ウクライナ側の否定をよそに。破壊し尽くし、生命も感じさせぬ街にしておいて、どこが解放なのか▲ゼレンスキー大統領は涙をこらえているように見えたと、館での表情を対面した被爆者は語る。G7が終わり、日常を取り戻した街で祈る。戦争終結とウクライナ復興を。

(2023年5月23日朝刊掲載)

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