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社説・コラム

社説 広島サミット 被爆地の明日 核廃絶の原点は変わらぬ

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)が閉幕し、広島は再び日常の生活に戻った。物々しい数だった警察官の姿はすっかり消え、交通規制も解かれた。

 厳しい警戒態勢ながら、期間中に市民からは目立った不満は聞こえなかった。核兵器廃絶を議論する舞台に広島ほどふさわしい場所はない。その意識が共有されていたからだろう。

 広島発のニュースが連日、世界に伝えられ、サミットが被爆地の存在感を高めたことはまぎれもない。今後、国内外から多くの人が広島を訪ねてくれるはずだ。平和記念公園や原爆資料館にぜひ足を運び、「核兵器のない世界」の実現へ機運を高めてもらいたい。

 首脳は世界遺産の厳島神社がある宮島も訪ねた。食事には日本酒をはじめ、比婆牛やカキ、レモンなど広島産の食材が数多く提供された。公式行事だけでなく、首脳がお好み焼きづくりを楽しむ話題も伝えられた。

 コロナ禍で観光関連産業は苦しんだだけに、広島のさまざまな魅力も世界に発信できたことは良かった。国際会議をやり遂げた自信もついた気がする。

 ただ、それは副次的な話に過ぎない。忘れてならないのは、核兵器による被害を二度と許さない信念に立脚した、被爆地としての使命だろう。

 広島は、原爆被害の実態を知ってもらうことで核廃絶の取り組みが広がることを願ってきた。要人に広島訪問を求めてきた経緯もそこにある。

 核保有国が隣国を侵略する暴挙を目の当たりにして「核には核で対抗する」核抑止論が幅を利かせている。だが、核兵器がある限り、使用される危険は消えない。保有国が不使用を強調したところで、核で威嚇する指導者は現実にいるではないか。

 軍縮義務を果たさない保有国に対し、核の「非人道性」に焦点を当てた議論の国際的なうねりが核兵器禁止条約に結実した。非保有国の多くは核兵器を全面禁止する方向に結束しつつある。にもかかわらず、討議の成果としてまとめた核軍縮に関する「広島ビジョン」が核兵器禁止条約に触れていないことは許しがたい。

 被爆地での開催、しかも岸田文雄首相は地元の選出だ。首相が「保有国と非保有国の橋渡し役」を常々強調している。

 ならば、被爆者や市民団体が「核なき世界への大きな一歩」と位置づける核兵器禁止条約に背を向けることなく、共に歩みを進めるべきだ。われわれは条約への署名、批准を政府、国会に改めて迫る必要がある。少なくとも、年内にある第2回締約国会議にはオブザーバー参加をするべきだ。

 米国のオバマ元大統領の訪問以降、広島を訪ねる人は増えている。広島の知名度が高まったことを実感するが、核を巡る国際状況はむしろ悪化している。

 G7首脳が慰霊碑に献花し、核廃絶に取り組む姿勢を強調するだけでは不十分だ。各首脳が被爆地に残した言葉は「公約」でもある。ビジョンを掲げて終わりではなく、それぞれが具体的な行動で示す責任がある。

 核兵器による悲劇を再び起こさないためには、核廃絶以外に道はないのは明らかだ。核なき世界は理想ではない。被爆地ヒロシマの不変の原点だと、訴え続けなければならない。

(2023年5月23日朝刊掲載)

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