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[サミットと地域経済] 首脳声明が問う課題・展望

 広島市で19~21日に開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)の首脳声明は、中国地方と関わりの深い内容を含む。地域経済は何を問われたのか。経済安全保障や脱炭素、新興・途上国の各テーマで課題と展望を読み解く。(榎本直樹)

経済安保

半導体産業の安定成長焦点

 経済安保に関する声明には、半導体や蓄電池、重要鉱物について「サプライチェーン(供給網)を強化していく」との文言が盛り込まれた。半導体は車や医療機器、家電などさまざまな製品に欠かせない。安定供給に向け、中国地方でも大型投資の動きが相次ぐ。

 サミットのタイミングに合わせるように、米半導体大手マイクロン・テクノロジーは18日、東広島市の工場を含め、今後数年で日本国内に最大5千億円を投じると発表した。広島県や広島大など、地元の産官学も人材育成などで連携する。

 ただ、日本の半導体産業は海外勢に大きく水をあけられている。マイクロンの投資には日本政府による巨額の助成金が伴う。半導体産業が安定して成長できるかどうかも問われる。

 電気自動車(EV)の量産に向けマツダの電池調達も注目される。世界でEV化の流れが加速する中、電池は材料のレアメタル(希少金属)も含め争奪戦が激しく、中国勢のシェアが高い。マツダは調達先に中国資本のエンビジョンAESC(神奈川県)を加える。

脱炭素

代替エネ確保を模索

 声明には「排出削減対策が講じられていない化石燃料の段階的廃止を加速させる」と明記されたが、石炭火力発電の廃止は具体的な時期を含め大きな進展はなかった。燃やしても二酸化炭素(CO₂)が出ない水素やアンモニアは中国電力も活用を進める。再生可能エネルギー由来の水素などは「使用を検討している国があることにも留意する」との表現にとどまった。

 広島県立総合体育館(中区)に設けられた国際メディアセンターの企業展示ブースでは、国内のプラントメーカーや電力会社などが水素やアンモニアの活用技術を紹介した。ただ、ある企業の担当者は「英国の関係者から『アンモニアはだめ』と言われた」と明かした。石炭とアンモニアの混焼は、日本のエネルギー政策の柱の一つだが、環境NGOを含めて「石炭火力の延命」との異論もある。

 課題は電力に限らない。声明に「産業および運輸といった、特に排出削減が困難なセクター」とあるように、製鉄や化学など瀬戸内に集まる産業も石炭火力発電所を持つ。蒸気などの熱利用にも使っており、代替エネルギーの確保を含めて脱炭素化は簡単ではない。

新興・途上国との連携

信頼獲得へ 相互利益を

 声明は、アフリカ諸国とのパートナーシップ強化など「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国との連携も打ち出した。

 21日、招待国ベトナムのファム・ミン・チン首相と、同国に進出する広島県内の企業などとの会合が東区であった。半導体関連やアパレルなど多くの企業が進出するだけでなく、県内に多くの人材を受け入れている。県内の在留外国人のうち、国・国籍別はベトナム人が1万3927人(昨年6月末)と最も多い。

 国際メディアセンターには、アフリカの食糧問題の解決に挑むトロムソ(尾道市)もブースの一角に出展した。精米で出るもみ殻でバイオマス燃料を作る機械を展示。西嶋良介海外事業部長は「稲作が広がり、もみ殻を活用できれば食糧・エネルギー問題だけでなく、木を切り、まきを炊いて料理する女性たちの労力も減らせる」とジェンダー面での意義も説いた。

 チン首相は会合で「両国の社会に利益が出ることを期待している」と述べた。先進国の都合で、新興国や途上国を資源国や市場として利用するだけでは信頼は得られない。

(2023年5月23日朝刊掲載)

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