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[広島サミットを終えて] 感慨や嘆き 思い交錯 地元住民の受け止め

「訪問者増に期待」/「規制 不便だった」

 広島市で21日閉幕した先進7カ国首脳会議(G7サミット)。厳戒態勢の下で開かれた一大行事は、各国首脳の原爆資料館(中区)見学やウクライナのゼレンスキー大統領の電撃訪問などが世界の注目を集めた一方、連日の交通規制が市民生活に影響を及ぼした。一夜明けた22日、市民の受け止めを聞いた。(治徳貴子、岸慶太、鈴木愛理)

 サミット期間中、立ち入り規制された平和記念公園(中区)はこの日、多くの観光客や市民が行き交った。近くに住む被爆者の山崎耐子さん(79)は、核兵器保有国の米英仏を含むG7首脳が初めて広島の地にそろったことに感慨深げ。原爆ドームを見やり「オンライン参加のうわさもあったバイデン米大統領も来た。とにかく核兵器を使わず、平和であってほしい」と願った。

 G7サミット初の核軍縮に特化した文書「広島ビジョン」が核抑止を事実上肯定するなど、被爆地の視点でみれば物足りないとの声も上がった。「首脳たちは40分の資料館見学で何を感じたのか。核廃絶につながるかは疑問だ」。知人と同公園を訪れた廿日市市の谷野理恵子さん(66)はそう指摘し、「広島開催というだけで終わってはいけない」とくぎを刺した。

 期間の後半は「ゼレンスキー劇場」の様相だった。ロシアから核の威嚇を受ける戦時下の国のリーダーは資料館も訪問し、交通規制が敷かれた沿道には市民が殺到した。西区の会社員工藤一恵さん(32)は突然の訪問に驚きつつ「資料館でヒロシマと母国の現状を重ね、平和への思いをより強めたのではないか」と想像を巡らせた。

戦争激化を懸念

 一方で、ゼレンスキー大統領は米国製F16戦闘機のウクライナへの供与容認をバイデン米大統領から取り付けるなど、広島は軍事協力の場にもなった。安佐南区のアルバイト岡優(まさる)さん(71)は「武器供与で戦争は激化するかもしれない」と複雑な表情を浮かべる。中区の求職中の女性(47)も「ロシア対欧米の戦争にならないか」と懸念した。

 市内の大規模な交通規制は、市民の生活や経済活動を直撃した。広島都市学園大2年吉野滉平さん(20)=南区=は深夜にサミット主会場近くの自宅に帰る途中、約30分足止めされた。「国際会議で仕方がないとはいえ、不便でいい気持ちはしなかった」とこぼした。

収入減 補償なく

 飲食店もあおりを受けた。平和記念公園近くのお好み焼き店オーナー坂田剛さん(51)はサミット前後の5日間、店を閉じた。常連客の大半が仕事を休んだり、在宅勤務に切り替えたりしたためだ。「週末で大きく収入が減るのに休業補償もない」と嘆いた。

 「サミット後」に期待する声も。姉が被爆者という中道紀子(としこ)さん(82)=東区=は、原爆資料館が首脳たちの訪問で世界に注目され、来館者が増えると期待する。「サミットで広島を知った国内外の若者が実際に資料館を訪れ、自らの目で悲惨さを確かめたら核なき未来はきっと開ける」と願いを込めた。

(2023年5月23日朝刊掲載)

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