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連載・特集

広島サミットを終えて <2> 岸田首相

「大きな成果」 求心力上昇

解散論 時期が焦点に

 23日朝。官邸での閣議を終えた岸田文雄首相は隣接する公邸に戻り、1人の時間を過ごした。平日の日中を休息に充てるのは異例のことだ。「休みなくサミット対応に当たってきた」。首相周辺は、議長を務めた先進7カ国首脳会議(G7サミット)の閉幕を理由に挙げた。

開催の思い強調

 「大きな成果を上げることができた」。サミットから一夜明けた22日夕、首相は報道陣に毅然(きぜん)と言い切った。被爆地広島市に初めて米英仏の核保有3カ国の首脳をそろって招いた。原爆資料館(中区)で被爆者との面会を実現させ、戦地ウクライナのゼレンスキー大統領の電撃来日もかなえた。政府関係者からは「驚くほどうまくいった」との声も上がる。

 原爆慰霊碑を背にした、締めくくり会見もそうした評に輪をかける。中でも、冒頭発言の半分を割いたのは「広島開催の思い」だ。

 「1945年の夏、広島は原爆によって破壊された。この場所も一瞬で焦土と化した」。周到に練ったというスピーチで首相は被爆の惨禍を伝え、「核兵器のない世界」に向け「一歩一歩、現実的な歩みを進めていこう」と呼びかけた。

 司会が会見終了を告げ、慰霊碑側に歩き始めた時。最前列の記者が追加で核軍縮への道筋を問い、「逃げるんですか」と追及した。きびすを返し、演台に戻る首相。時折、机をたたきながら3分半、前を見据えて自身の考えを訴えた。ある外交筋は「力強い総理の姿があった。国民に決意が届いたんじゃないか」とみる。

 そうした見方を映すかのように、報道各社の世論調査で内閣支持率は上向いた。自民党内には早くも「衆院解散の絶好の機会」(岸田派中堅)との声が上がる。側近でもある宮沢洋一税調会長からは、野党が内閣不信任案を出した場合、「首相の性格からすると受けて立つ可能性もかなり高い」との発言も出た。

「考えていない」

 衆院議員の任期満了まで2年5カ月を残し、来秋の自民党総裁選までも1年以上ある。首相が総裁再選を狙う上では「この時期の解散はまだ早い」(党幹部)との見方はある。だが、これから年末にかけ、防衛増税の時期決定や少子化政策の財源確保など国民の負担増に直結する議論は避けられない。結果的に首相の求心力を高めた広島サミットが、党内の早期解散論を後押しする流れができつつある。

 首相は一貫している。「解散については考えていない」。広島サミットの前後、3度にわたって報道陣の問いかけに答えた。早期解散に慎重な連立パートナーの公明党の山口那津男代表は23日の記者会見で「国民の支持だけでただちに解散すべしだとはならない。冷静に客観的に考える必要がある」とくぎを刺した。

 首相は就任間もない2021年10月の衆院選と、22年8月の内閣改造のタイミングでも周囲をけむに巻いた。いずれの際も気配を漏らさず、与野党を驚かせた。二度ある事は三度あるのか。胸中を探り、けん制する動きが永田町で強まっていく。(樋口浩二、口元惇矢)

(2023年5月24日朝刊掲載)

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