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社説・コラム

社説 衆院解散の観測 浮き足立たず議論尽くせ

 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が終わり、永田町の関心は岸田文雄首相がいつ衆院解散・総選挙に踏み切るかに移っている。

 「解散は考えていない」と繰り返す首相は時期を見極める構えだが、自民党内には早期解散論が急浮上する。ウクライナのゼレンスキー大統領の参加などで注目を集めたサミットを追い風に、政権への支持率が上昇するとの期待からだ。

 通常国会は6月21日の会期末まで1カ月を切った。残る法案は国民の将来に関わる重要なものばかりだ。サミットを受けた日本外交の在り方など向き合う課題は山積する。解散観測に浮足立つことなく、中身のある議論に努めなければならない。

 衆院ではきのう、防衛費増額の財源を確保する特別措置法案が本会議で可決された。野党は増税が前提になっているなどとして反対しており、与野党攻防の舞台は参院へ移る。

 政府は防衛増税の時期を「2024年以降の適切な時期」とする。さらに少子化対策に充てる財源の確保策は国会閉会後に経済財政運営指針「骨太方針」で示す。自民党内には解散が秋以降になれば、増税が争点になり、逆風を懸念する心理が働いているのではないか。それがサミット効果に上乗せする形で早期解散論につながっている。

 春の統一地方選で躍進した日本維新の会の擁立作業が進まないうちに選挙を仕掛けるべきだとの声も少なくない。

 ここにきて対決姿勢を強める立憲民主党内では内閣不信任案提出がささやかれる。首相のいとこの宮沢洋一自民党税制調査会長は「首相の性格からすると不信任案が出たら受けて立つ可能性が高い」との見方を示す。

 しかし、選挙に有利というだけで解散を判断されては困る。首相は「今は重大な政治課題に結果を出すことに専念する」と言う以上、国会論戦で国民の疑問や懸念に真摯(しんし)に向き合うことが求められる。

 防衛費増額では、そもそも増強する防衛力が専守防衛を逸脱しないのか、疑問が残ったままだ。首相の説明は具体性を欠き、議論がかみ合っていない。

 防衛増税の時期決定や少子化対策の財源確保策など、国民負担につながる財源論議が深まり、国民に判断材料を示してから信を問うべきだろう。

 終盤国会では他にLGBTなど性的少数者への理解増進法案や入管難民法改正案などの審議が残る。両法案は人権や多様性に対する日本の感覚が問われる問題で、まさにサミットで国際標準から大きく遅れる姿が浮き彫りになった。拙速な法制化は避けなければならない。与野党で協議を重ね、よりよい方向を追求してもらいたい。

 核兵器のない世界への道筋を国会で議論するのはサミットの開催意義からも当然だ。核兵器禁止条約への参加を含め、世界は日本の動向を注視している。ロシアのウクライナ侵攻への対応や対中国政策も大局的な観点から論じるべきテーマである。

 原爆被害の実態を伝え、核廃絶と不戦を求めてきた被爆地だからこそ、サミットは人々に強い印象を与えたはずだ。「サミット解散」と選挙に利用する動きがあれば広島の思いを踏みにじることになるのではないか。首相はよく考える必要がある。

(2023年5月24日朝刊掲載)

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