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核被害地の「記憶」共に学ぶ ビキニ60年 広島の被爆3世が現地報告

 米国によるビキニ水爆実験からちょうど60年となる今月1日に合わせて、実験場のあった中部太平洋マーシャル諸島で、世界の核被害地の若者が交流するワークショップ(研修)が開かれた。参加した広島市立大の三好花奈さん(19)=佐伯区=と小田真理子さん(20)=廿日市市=の2年生2人と、企画したロバート・ジェイコブズ広島平和研究所の准教授(54)=歴史学=が広島市役所(中区)で記者会見し、概要や成果を説明した。学生2人は「体験を生かして、身近なところから始めたい」と意欲を語った。(金崎由美)

「まず証言を収録」

 首都マジュロであったワークショップは、各地の核被害者の第3世代を対象にした4日間のコース。被爆地広島からの2人に、地元マーシャル諸島と、旧ソ連最大のセミパラチンスク核実験場があったカザフスタンの大学生を含め計8人が参加し、体験証言の収録スキルなどを学んだ。

 被爆3世の2人は、互いに地元の核被害について報告し合うセッションで、それぞれ祖母の被爆体験を語った。証言映像の撮影方法や編集のこつをプロのカメラマンから学んだり、被害者の心情で配慮すべき点などについて話し合ったりした。加害者に対する率直な思いをどう問うか、といった課題についても意見を交換したという。

 三好さんは「体験が忘れられていく現状は共通していた。祖父母らの世代の語りを残せるのは今しかないと思った」。小田さんは「広島生まれというだけで多くを知っている気になっていた。まずは祖母の被爆体験を収録することから始めたい」と話していた。

歴史継承の担い手へ

企画のジェイコブズ氏

 オーストラリアの研究者とつくる「グローバル・ヒバクシャ・プロジェクト」の一環で研修を企画したジェイコブズ准教授。「核の被害証言をオーラルヒストリー(口述の歴史記録)として後世に残す担い手を育てたい」と話す。

 原爆被害と、冷戦期の核実験による被曝(ひばく)被害。一人一人の健康や人生だけでなく、地域の日常の営みや文化のありようも大きく変える。若者が実態を映像にして地域で引き継いでいく。若い担い手の間で交流を深め、世界の地域間で共有する道も開く。そんな狙いがあると指摘する。

 若者たちが撮りためるビデオは、証言者の了解を得てウェブ上で閲覧し合えるようにする考えだ。

 字幕は英語で統一するようなことをせず、現地語で作成する。「核実験地はかつて大国の支配下にあったり旧植民地だったりした場合が少なくない。証言に『植民地主義』の名残は持ち込まない」と説明する。

 課題もある。学生の渡航費用などは、オーストラリアのNPO(非営利組織)が支援してくれた。ところが、英国による核実験で先住民アボリジニらが影響を受けた当のオーストラリアからは直前で参加が取りやめになった。地元で被害を語ることは時に繊細な問題でもある。

 米国のネバダ核実験場、南太平洋のフランス領ポリネシアなど、各地の若者をより広く結んでいきたい、と今後の抱負を語った。

(2014年3月17日朝刊掲載)

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