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連載・特集

広島サミットを終えて <3> 経済効果

観光や食品 高まる期待

国際会議誘致に弾み

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)の前後でホームページのアクセスは約10倍に増えた。主会場となり世界の注目を集めたグランドプリンスホテル広島(広島市南区)。24日、通常営業を17日ぶりに再開した。全509室の宿泊予約は平日にもかかわらず満室だ。

 「24時間対応で眠れない日もあった」。平瀬春男総支配人(54)は緊迫した日々を振り返る。全国の同じグループのホテルから約130人が応援に入り、400人態勢で臨んだ。ウクライナのゼレンスキー大統領の電撃訪問は直前まで知らされなかった。急きょ「ウクライナチーム」を結成するなどし、機敏に対応した。

一人一人と握手

 心温まる場面もあった。最終日の21日。フランスのマクロン大統領は、見送りに並んだ従業員一人一人と握手し感謝を伝えた。感極まって涙を流す人もいた。

 サミットが運んできた苦労と喜び、そして集客効果。平瀬総支配人は国際会議などのMICE(マイス)の誘致にも弾みがつくとみる。「広島は他の主要都市に比べて件数が少なかった。注目が集まるはず」  政府観光局によると、新型コロナウイルス禍前の2019年に広島市で開かれたマイスは72件。地方の中枢4市「札仙広福」では福岡市313件、仙台市136件、札幌市102件。広島は水をあけられている。

 マイス誘致戦略に詳しいMICEジャパン(東京)の森口巳都留(みつる)社長は「G7サミットを開けたという実績は、どんな会議も開けるという強みになる。世界から注目を集めた今、成果を次の誘致につなげる戦略が重要」と説く。

 観光客とマイスを呼び込む鍵の一つが、広島ならではの体験だ。最近は国際会議の合間に、参加者が観光地や食を楽しむ傾向が強まっている。サミットでは、戦後の復興とともに広島の味として定着したお好み焼きが脚光を浴びた。

 話題を呼んだのは英国のスナク首相。20日、お好み焼き作り体験施設のオコスタ(南区)を急きょ訪れた。エプロン姿で鉄板の前に立つスナク氏の写真を英国大使館がツイッターに投稿し、話題になった。運営するオタフクソース(西区)によると、22日以降のネット予約はサミット前の5倍の勢いという。

 オコスタはお好み焼きを世界に発信しようと18年10月、JR広島駅の商業施設にオープン。新型コロナウイルス禍で逆風に見舞われてきた。オタフクソースお好み焼課の春名陽介課長(42)は「サミットの追い風は励みになる」と受け止める。

繁華街で休業も

 サミットは地域経済に影も落とした。繁華街の流川地区では大規模な交通規制の影響で客が減り、休業する飲食店も相次いだ。中区胡町のバー、アップステアーズは20、21日の来店客が普段の半数以下に。バーテンダーの角田翔さん(37)は「お客が増える午後9時以降が特に少なかった。交通規制で皆早く帰ったのだろう」とみる。週末の人出が平日並みに減った郊外の大型商業施設もあった。

 広島サミット県民会議の副会長を務める、広島商工会議所の池田晃治会頭は「広島の魅力をもう一度棚卸しし、どういうものが今後必要か皆で議論できたらいい」と語る。サミットで得た経験と官民の連携を、次に生かす戦略づくりが問われている。(森岡恭子、政綱宜規、榎本直樹)

(2023年5月25日朝刊掲載)

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