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「語り」で知る現代史 広島大文書館 記録冊子をシリーズ化 中国新聞元社長ら証言

 「語り」による現代史研究の手法、オーラルヒストリー(口述記録)に力を入れる広島大文書館(東広島市)が、記録冊子を「オーラル・ヒストリー叢書(そうしょ)」としてシリーズ化する事業を始めた。広島大75年史編纂(へんさん)室と共同で、同大ゆかりの人物を取り上げた2冊(非売品)が相次ぎ完成。一部の図書館で閲覧できるほか、語り手の了承を得られた範囲でサイトでも公開している。(編集委員・道面雅量)

 現在、75年史編纂室に所属する石田雅春准教授が中心になって手がけた。今春発行した第2集は、同大文学部の卒業生で元中国新聞社社長の今中亘さん(87)へのインタビュー記録。旧満州(中国東北部)からの引き揚げの記憶や、苦学の末にかなった大学進学に続き、1965年の菊池寛賞を受けた広島での暴力団抗争取材や、米ニューヨーク支局時代に敢行したマフィア取材、スリーマイルアイランド原発事故の現場に駆けつけた経験など、一線記者時代の逸話が語られる。

 石田准教授は「暴力団抗争取材の背を押した住民の声など、当事者の実感が非常に興味深かった。(抗争が題材になった)映画『仁義なき戦い』の印象に隠れた側面が浮かんでくる」と話す。

 今中さんは、暴力団追放キャンペーンを展開した報道部長時代の85年、自宅玄関にコールタールがまき散らされ、社長宅に銃弾が打ち込まれる経験をした。本書の中で繰り返し触れているのが、「新聞は ひるまず おごらず かたよらず」という88年度の新聞週間の標語。「新聞をはじめマスコミを志す人へ、ぜひこの座標軸を引き継いでほしいという思いもあって、今回の聞き取りに応じた」と振り返る。

 インタビューは2020~21年に行われた。社長として経営を担った日々、退任後の歩みも収める。プライバシー保護などの観点で冊子に収録していない部分もあるが、歴史研究の資料として元データを大学で保管。一定期間が経過後に閲覧可能にする手続きを、慣例に沿って整えているという。

 第2集はA4判、本文129ページ。広島県内の主要図書館に寄贈し、現時点で広島大中央図書館(東広島市)で閲覧できる。サイト「広島大学学術情報リポジトリ」でも公開している。

 第1集は「卒業生証言記録集(1)」で、文書館や75年史編纂室に史料を提供した卒業生たち14人への聞き取りを収める。本文252ページ。サイトでの公開はしていないが、原爆資料館(広島市中区)や広島市立中央図書館(同)などで閲覧できる。

 同大文書館はこれまでも、広島ゆかりの政治家や被爆者への聞き取りをまとめた冊子の刊行を重ねてきた。単独の研究成果ではなく、事業の全体像が見えやすい形を目指し、シリーズ化を始めたという。今後も同大ゆかりの人物を軸に続刊する。

(2023年5月25日朝刊掲載)

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