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連載・特集

広島サミットを終えて <4> 警備・交通規制

威信懸けた任務「完遂」

マイカー自粛 県民協力

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)の閉幕から一夜明けた22日午前、広島県警本部が入る県庁東館(広島市中区)の一室で拍手が広がった。招待国ブラジルのルラ大統領が要人の中で最後に広島を離れ、警護をやり遂げた時だった。警備本部に詰めた森元良幸県警本部長たち幹部は疲れた表情を見せつつ、安堵(あんど)の笑みをこぼしたという。

 米国のバイデン大統領ら要人の警護をはじめ、警察当局は「日本警察の威信を懸けた警備」(森元本部長)を展開した。2016年の伊勢志摩サミット(三重県)を上回る最大時約2万4千人態勢。開幕前から全国各地の警察官が続々と広島入りし、広島市中心部は他県警の制服と車両が集う異例の光景が広がった。

 昨年5月の広島サミット決定後、要人警護への注目はいや応なく高まっていた。7月の安倍晋三元首相銃撃事件で、当時の警察庁長官は「失態」を認めた。開幕を1カ月後に控えた4月中旬には、岸田文雄首相の演説会場に爆発物が投げ込まれた。「どれだけプレッシャーだったか」。県警警備部の幹部は打ち明ける。

電撃訪問も対応

 森元本部長は「都市型サミットの難しさを踏まえ、細心熟慮の計画策定に苦心した」と振り返る。市中心部のデルタ地域は川や海に面している。公式行事の最初の舞台となった平和記念公園(中区)は、出入り口が複数あるオープンなスペース。周囲には高層の建物も立ち並ぶ。

 県警は毎年8月6日の平和記念式典の警備をこなしているが、「今回は全く別物」(別の幹部)。外務省は平和記念公園をフェンスで囲む対応を取り、18~21日は完全に封鎖した。首脳らの移動時には沿道対策を徹底し、多くの警察官を配置。集まった観衆に手荷物検査をし、荷物は地面に置くよう要請した。

 突発的な対応も求められた。ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領が電撃訪問。県警に警察庁から正式に伝えられたのは、広島入り当日の20日朝だった。

 警備強化のため、予備部隊を投入。ゼレンスキー氏が平和記念公園を訪問した21日には緊張感がさらに高まった。会期中はG7首脳らが観光を楽しむなど予定にない動きもあったが、何とか乗り切ったという。

渋滞は最長3キロ

 県民たちの協力も警備の「完遂」を後押しした。県警などは会期中とその前後の18~22日、県内の高速道と市中心部の一般道の交通総量を50%削減する目標を設定。マイカー利用の自粛を求め、大規模な交通規制を実施した。

 規制に伴う渋滞は15件で最長は約3キロ。新型コロナウイルス禍で浸透したリモートワークを多くの企業が実践するなどし、目立った混乱はなかった。

 県警サミット対策課の植義則課長は「県民と事業者、県外から派遣された警察官に感謝しかない。今回の警備を検証し、次のために引き継ぎたい」と和らいだ表情を引き締めた。(山崎雄一、浜村満大)

(2023年5月26日朝刊掲載)

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