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社説・コラム

『記者縦横』 広島サミット 検証必要

■報道センター社会担当 山本洋子

 首脳を乗せた車列を追う航空映像、ウクライナのゼレンスキー大統領の記者会見のライブ中継…。21日に広島市で閉幕した先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、膨大な情報がリアルタイムでウェブ上に流れ、驚くスピードで世界に拡散した。本紙も地元紙として多くの記者が各所で取材し、ウェブサイトやツイッターで写真、動画を交えてつぶさに発信。瞬時に反応が広がる即時性と関心の高さを目の当たりにした。

 首脳たちも交流サイト(SNS)を頻繁に更新し、参加国の連帯の強まりなどをPRした。だが、原爆資料館の見学を含めてサミットの大部分は非公開であり、私たちは限られた断片的な情報を受け取ったに過ぎないとも言える。

 「速い思考」は直感として自動的で高速に機能し、バイアスがかかりやすい-。ノーベル経済学賞を受賞した心理学者のダニエル・カーネマン氏は、人の意識下には「速い思考」と熟考型の「遅い思考」があり、通常は速い思考が大半の判断を左右して「わずかな情報から結論に飛躍してしまう」と危うさを指摘する。

 デジタル空間では今も、異なる価値観や立場から広島サミットに対する多様な意見が飛び交う。閉幕で終わりでなく、公開されていない情報の空白を埋め、遅い思考で検証する作業が今後も必要だろう。単なる通過点なのか、変化の分岐点になるのか。私たちは何を今後に生かすのか。広島サミットの未来への価値は、これから見えてくる。

(2023年5月26日朝刊掲載)

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