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連載・特集

広島サミットを終えて <6> ゼレンスキー氏

「電撃訪問」 世界が注目

露の動向 被爆者ら危惧

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)が広島市で閉幕した21日夕、元宇品町(南区)から平和記念公園(中区)に向かう道沿いのあちこちに、大きな人垣ができた。視線の先には、戦時下のウクライナからやって来た大統領の姿。「応援の気持ちを伝えたい」。懸命に手を振る市民もいた。

 ゼレンスキー氏の広島電撃訪問は、世界の注目を集めた。ロシアによる核のどう喝にさらされる当事国のトップとして原爆資料館を見学し、被爆者の小倉桂子さん(85)と対面。芳名録には「現代の世界に核による脅しの居場所はない」と記した。広島国際会議場での記者会見では「人類の歴史から戦争をなくさなければならない」。被爆地の思いに寄り添うように強い言葉を発した。

 「広島に迎え、核兵器による威嚇、ましてや使用はあってはならないとのメッセージを緊迫感をもって発信した」。岸田文雄首相も閉幕の記者会見で、ゼレンスキー氏が対面参加した意義を強調した。

各国首脳と会談

 リスクを冒して来日したゼレンスキー氏も実利を得た。20日に広島入りするなり各国首脳と個別会談。その一人が、拡大会合に招かれたインドのモディ首相だった。「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の代表格で、ロシア非難を避けている。この日の会談では、解決に向けて「できる限り手を尽くしたい」との言葉を引き出した。

 ゼレンスキー氏はG7のより強固な支援も取り付けた。バイデン米大統領が、欧州の同盟国による米国製F16戦闘機のウクライナへの供与を容認。ほぼ中央にゼレンスキー氏が陣取ったG7首脳との集合写真は、ロシアの孤立を印象付けた。さまざまな国の思惑がうごめいた3日間。ゼレンスキー氏は不戦の誓いを刻んだ原爆慰霊碑に献花後、「ロシアへの勝利とその後の平和が夢だ」と支援を訴え、被爆地を後にした。

 ただ、先の展開は見えない。追い詰められたロシアがさらなる暴挙に走らないかと案じる声がある。

 被爆者の内藤慎吾さん(84)=南区=も「無論、ウクライナの一日も早い平和を願う。でも自衛の戦争だから応援してほしい、との思いに私は応えられない」と漏らす。先の大戦を経験し、親きょうだいの原爆死に向き合った。「被爆地は核も戦争もない世界を訴えてきた。別の解決策は本当にないんでしょうか」

変わる立ち位置

 その問いは議長国の日本政府にも向けられる。今回、リスクを承知でゼレンスキー氏を受け入れた。専門家には、ロシアだけでなく、中国の「力による現状変更」へのけん制を狙ったとの見方がある。サミット後、岸田首相が7月に米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議に出席するとの報道も流れた。実現すれば日本の首相として2年連続2回目だ。

 広島サミットは、安全保障環境の悪化を理由に変容する日本の立ち位置を浮き彫りにした。目の当たりにしたヒロシマが声を上げ続けられるか問われる。核は要らない、戦争は嫌だと。(編集委員・田中美千子) =おわり

(2023年5月28日朝刊掲載)

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