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社説・コラム

天風録 『地域の警察官』

 背伸びして車列を待つ人垣が、ユーモアのある声かけに和んだ。「せっかくの機会ですから皆で見て写して笑顔で手を振りましょう」。G7広島サミットの首脳が通る沿道を警備する警察官はソフトな対応も見せて、市民の安全にも努めた▲全国から続々集まり、最大約2万4千人に。都道府県名の入った制服や車両が行き交った。近寄りがたいが、そばを通ると柔らかなお国言葉が聞かれた。互いの地元の産品について語り盛り上がったという市民もいる▲きのう時事川柳に載った句はサミット中の光景か。「町民と警官交流ほほ笑まし」。不便な日々だったが心強く感じた人もいたようだ。チェーンの外れた自転車を直してもらった子どもも。休憩に使われた集会所には住民への感謝の言葉が残されていた▲皆、それぞれの地域で住民に寄り添い、暮らしを守っているのだろう。この警察官もそうだったに違いない。パトカーで急行した現場で、突如撃たれて亡くなった長野県警の2人である▲正義感に燃える警部補と落ち着きのあるベテランの「名コンビ」だったという。何かあれば常に真っ先に駆けつけていた2人の殉職。何と大きな損失であろうか。言葉がない。

(2023年5月28日朝刊掲載)

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