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連載・特集

広島サミットを終えて <5> 市民社会

首脳声明 具体化を注視

政府の対話姿勢 「乏しい」

 「政治的な意味は重たい。議長国として日本はどう取り組むのか。国会も含め議論してほしい」。広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)閉幕から2日後の23日。性的少数者の権利保障についてG7へ政策提言をしてきた団体「Pride7(P7)」の神谷悠一さんが、東京での記者会見で力を込めた。

 神谷さんが言及したのは、サミットの成果であるG7首脳声明で性的少数者の人権を尊重し差別のない社会を実現すると宣言した部分。P7は、G7で日本にだけ性的少数者への差別禁止法がない現状や、首相秘書官から飛び出した差別発言に危機感を持った複数の団体の呼びかけで創設された新しいグループだ。

 気候変動、人道支援、食料安全保障…。40ページにわたる首脳声明に記されたさまざまな分野の約束や方針を巡り、政策提言をしてきたた非政府組織(NGO)やNPOはG7各国の今後の動向を注視する。

 2018年のカナダ・シャルルボワサミットの頃から、市民社会側は政策提言を担う集団をエンゲージメントグループとして立ち上げ、議長国も公認する取り組みが続く。女性に関する「Women7(W7)」や市民社会に関する「Civil7(C7)」がそれに当たる。

核兵器の廃絶も

 今回は広島市民も多く加わり核兵器廃絶に関する政策提言も初めてまとめられた。各グループはサミット開幕前に岸田文雄首相たちに政策提言書を手渡した。

 72カ国700人以上が経済や国際保健の議論に参加したC7。運営委員の木内真理子さんは「G7以外の国や弱い立場の人の声をインプットし、本当にそれで世界は良くなるのかとG7トップに問うのが私たちの役割」と強調する。

 市民も含む幅広いステークホルダー(利害関係者)で一緒に政策を考え練り上げる-。そんな機運が社会で高まることもG7サミットの開催意義だと言える。その点で議長国の日本政府の姿勢を問う声も現場では聞かれた。

 昨年のドイツ・エルマウサミットではショルツ首相は各グループが開く国際会議に出向き、「民主主義には活気ある市民社会が必要だ」と協力への謝辞を述べた。ドイツ政府もサミット公式ホームページで各グループを詳細に紹介した。

 翻って日本のサミット公式ホームページでのグループの紹介はわずかにとどまった。C7が4月に東京で開いた国際会議では、岸田首相が再三の来場要請に応えることはなかった。

スペースを撤去

 サミットの取材拠点、国際メディアセンター(中区)でも印象的な出来事があった。C7やW7がメディア向けの情報チラシを掲示するスペースを巡り、外務省が「許可していないチラシがあった」として、サミット初日の19日にスペースごと撤去した。その対応からは政府が市民社会側と意見を交わし、次善策を探る姿勢は見られなかった。

 C7運営委員を務めたNPO法人ひろしまNPOセンター(同)の松原裕樹事務局長は「日本政府は、対話を大切にする姿勢が乏しかった」と残念がる。ただ、一方で「政治と市民社会が共に歩んで解決しなければいけない社会課題がたくさんある」とし、今回で7回目の議長国を経験した日本政府の今後の変化に期待も抱く。(久保友美恵)

(2023年5月27日朝刊掲載)

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