×

ニュース

被服支廠耐震化 着工見通せず 広島県 資材高騰で費用膨らむ恐れ 国の財政支援 初要望へ

 広島市南区にある最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」について、広島県が耐震化工事の着工の見通しを立てられずにいる。実施設計は3月末で終えたが、建築資材の高騰で工事費が想定より膨らむ可能性があるためだ。県は6月、国に耐震化に向けた財政支援を初めて要望する。(河野揚)

 今月29日の県議会総務委員会。最大会派の自民議連の森川家忠氏(竹原市・豊田郡)が「ここにきて物価高騰などもある。しっかり国に要望してほしい」と工事費の増額に言及した。公明党議員団の井上謙一郎氏(中区)も国と市との費用負担の見通しを尋ねた。県の担当者は「しばらく時間が必要。適切な時期に説明する」と明言を避けた。

 県は2021年5月、所有する全3棟を1棟5億8千万円の概算工事費で耐震化する方針を決めた。ことし3月末に実施設計を終え、23年度以降に着工するスケジュールだった。

 県は22年度に国や市と開いた研究会で、実施設計後に詳細な工事費と保存棟数を正式に打ち出す方針を示していた。ところが複数の関係者によると、建築資材の高騰で耐震工事費用が概算額より増える恐れがあるとして、方針を示せずにいるという。

 自民議連内には、かつて県が示した「2棟解体、1棟外観保存」の案を支持する声も依然としてある。県は工事費が膨らめば3棟保存への反発が再燃しかねないとし、時間をかけて国や市と費用負担などを協議する構えだ。

 こうした中、県は24年度の予算編成に向けた国への施策提案に被服支廠の安全対策への財政支援を初めて盛り込む。厚生労働省の被爆建物の保存のための補助金は上限が年2460万円に設定されているが、十分ではないとして拡充を求める。国重要文化財への早期指定による文化庁の補助金の活用も検討している。

(2023年5月31日朝刊掲載)

年別アーカイブ