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社説・コラム

天風録 『「命」を診ない医者』

 お酒のにおいをぷんぷんさせ、まともな診察や治療をしてくれない。そんな医者は誰でも願い下げである。その上、「不法滞在なんだから早く帰りなさい」「あなたの胆石どうでもいい」と暴言を放ったという▲大阪出入国在留管理局に勤務する女性医師のひどい振る舞いが明らかになった。ただでさえ施設に入れられて心細い。そんな収容者にとって、体の不調を訴える相手が「命」を診ようとしてくれないなら絶望しかない▲名古屋入管で2年前、収容中のスリランカ人女性が医師の手当てを受けさせてもらえぬまま衰弱死した。その改善策として、大阪へ常勤配置されたのが問題の医師だったというから驚く▲酩酊(めいてい)状態で出勤し、呼気検査でアルコール分が検出されたのは1月。1度廃案になった入管難民法改正案の国会再提出を控えた時期だ。報道で暴かれなければ、隠したままだったのでは▲与党は近く改正案を成立させる方針だ。人権軽視の入管がそのままでは、守るべき人を迫害の恐れがある母国へ送り返す懸念が拭えない。難民の保護と避難を強いられた人々の支援を〈再確認する〉としたG7広島サミットの首脳声明に、背を向けて恥ずかしくないのか。

(2023年6月1日朝刊掲載)

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