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「はだしのゲン」販売急増 平和教材から削除された漫画 連載開始50年

月15倍も「子どもに読ませたい」

 漫画「はだしのゲン」が売れている。広島市教委が平和教材から削除する方針を表明後、文庫版の販売数は3月に通常の15倍超に急増し、その後も勢いを維持。6月で連載開始から50年を迎える中、不朽の「原爆漫画」への注目が高まっている。(宮野史康)

 南区のジュンク堂書店広島駅前店では、中国新聞が2月16日に市教委の削除方針を最初に報じて以降、客から在庫の問い合わせが相次ぎ、販売数が増加。文庫版全7巻の一括購入も2件あった。中区の丸善広島店では「子どもに読ませたい」と購入した父親がいたという。

 文庫版を発行する中央公論新社(東京)によると、2月の販売数は通常と比べ11・3倍の約1800冊に。3月はさらに増え、15・6倍の約2500冊に上った。4月は約860冊だったが、5月の販売数は再び上向いている。

 同社は「報道で知り、もう一度読みたい、手元に残したい、子どもや孫に伝えたい、などと思って購入しているのでは」と読者のニーズを推し量る。売れ筋の第1巻を8千冊増刷する予定だ。

 主に図書館と取引する汐文社(東京)も2月、公式ツイッターに「多数の問い合わせと注文をもらった。作品に触れ、戦争と平和について考えるきっかけに」と投稿した。担当者によると、電子版の漫画の購入が増えているという。

 市教委は2月、小学生向けの平和教材「ひろしま平和ノート」からゲンの引用部分を削除する方針を表明。「漫画の一部では被爆の実態に迫りにくい」とする市教委の説明は議論を呼び、市民や被爆者団体から削除撤回を求める意見が殺到した。一方で市教委は方針を変えず、4月からの新教材にゲンは登場しない。

 はだしのゲンは1973年6月、週刊少年ジャンプで連載開始。中区出身の中沢啓治さん(2012年に73歳で死去)が自らの被爆体験を基に描いた。単行本や絵本はロングセラーとなり、英語やロシア語など多言語に翻訳されて世界に広がっている。

 ジュンク堂書店広島駅前店は4月に「戦争と平和」を考える書籍として紹介するコーナーを設置。連載50周年を見据えて6月まで全巻の平積みを続ける。三浦明子店長(46)は「削除の報道後、書店でゲンを扱わなくなるのかと心配する声もあった。ゲンを通じ、戦争の恐ろしさや無残さを知るきっかけをつくりたい」と話している。

(2023年6月1日朝刊掲載)

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