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アートの「今」伝え続ける 広島市現代美術館16年ぶりに作品購入 特別展で公開

今後もヒロシマ賞作家軸に

 広島市現代美術館(南区)が、市による積み立ての再開された基金を活用して16年ぶりに購入した作品を、開催中の特別展「Before/After」で展示している。イラン出身で米国を拠点に活動する映像作家シリン・ネシャットさん(66)の作品。2年余りの休館を経た今春のリニューアルオープンに合わせて公開し、美術の「今」を伝える館として存在感を見せている。(編集委員・道面雅量)

 ネシャットさんの作品は「ランド・オブ・ドリームス」(2019年)と題し、2画面で上映する映像と26枚の写真で構成する。米南西部のニューメキシコ州が舞台。映像は、砂漠に岩山がそびえる荒涼とした風景や、美術を専攻する女子学生が地元の住民を訪ね、最近見た夢を聞いて回る様などが描かれる。写真は、ネシャットさんが実際に州内の住民を撮影したポートレートで、先住民を含む多様な人種構成を映し出す。

底をついた基金

 ニューメキシコ州は、人類最初の核実験が行われた地でもある。映像に「元軍人」として登場する男は、「白みがかった青い光」や「太陽を覆う黒い煙」「黒い雨」について語る。ヒロシマと関連の深い作品として、専門家による委員会の承認を経て購入を決めた。ネシャットさんは05年、創作を通じて平和に貢献した現代美術作家に贈るヒロシマ賞を受賞している。

 同館は、国内初の本格的な公立現代美術館として1989年に開館した。市が開館までに累計20億円の基金を積み、作品購入に充ててきたが、00年度でほぼ底をついたという。日本宝くじ協会の助成を受けて作家に制作委託する手法での収集は続けたが、これも05年度で途絶え、寄贈の受け入れだけになった。

 「購入実績がないと、現役作家の作品価格の相場といった生の情報が入ってこなくなる。現代美術館にとってはとりわけ致命的」と寺口淳治館長。リニューアルを機に館の運営へのてこ入れを図る市は、19年度から年2千万円の規模で基金の積み立てを再開した。21年度、3年分の大半を投じて本作の購入が実現したという。

 公立美術館の作品購入を巡っては、25年春に県立美術館の開館を予定する鳥取県で、ポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルの「ブリロの箱」5点を計約3億円で買ったことが話題になった。ただ、開館を控えた時期の特別なケースであり、多くの自治体では近年、財政難が影を落として低調だ。

 広島県立美術館は02年度から作品購入がなく、美術品等取得基金も県が10年に廃止した。山口県の二つの県立美術館は近年、購入がない。岡山県立美術館は予算化し、年約100万円を充当(ただし、新進美術家育成の基金による購入が別途ある)。島根県では近年、県立2館向けに数十万~2千万円の規模で購入があるという。

自らを知る場に

 広島市現代美術館は、基金による購入を今後も3年に1度のペースで想定し、ネシャットさんと同じくヒロシマ賞作家の作品を軸に選んでいくという。

 ネシャットさんの作品は、イランで生まれ、長く対立関係にある米国で生きるという自身の経験なども反映し、難解さも伴うが、寺口館長は「作品を通して作家と出会い、その表現世界を知り、語り合うことで、私たちは自分自身とも向き合う。互いを尊重し、自らを知る場としての美術館を目指したい」と話す。「Before/After」展は18日まで。月曜休館。

(2023年6月3日朝刊掲載)

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