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社説・コラム

社説 入管法改正案採決へ 人権を守る制度と言えぬ

 2年前に1度は廃案となった入管難民法改正案の国会審議が大詰めを迎えている。自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党の4党が合意した修正案が、参院法務委員会できょうにも、採決される見通しだ。

 難民認定の申請の回数を事実上、制限するなど人権を軽んじる内容で国内外からの批判が根強い。修正案には難民認定を担う専門的な職員の育成や収容手続きで透明性の確保に努めることを盛り込むが、十分とはいえない。採決は時期尚早だろう。

 現行法では、難民認定を申請中の外国人は強制送還しないことを規定している。不法滞在者らが日本からの退去を免れるために難民申請を悪用する例が多いとして、3回目以降は申請中でも送還できるようにするのが改正案の最大の変更点だ。

 送還を拒む外国人の長期収容が課題となり、難民申請中に失踪する例も多い。出入国在留管理庁(入管庁)が手を焼いているのは分かる。だからといって申請回数を事実上制限する新たなルールは乱暴ではないか。

 3回目以降の申請で、難民と認定された例は過去3回あるという。難民支援団体は「保護されるべき人を見逃しかねない」と批判。国連人権理事会の特別報告者も、国際人権基準を満たしていないと指摘している。

 問題は、難民認定に対する国の後ろ向きな姿勢だろう。難民条約では、人種や宗教、政治的意見などを理由に母国で迫害される恐れがある人の送還を禁じている。

 にもかかわらず、日本の難民認定率は1%に満たず、他の先進国に比べて桁違いに少ない。

 そんな日本の姿勢を象徴する問題がここにきて浮上した。入管庁による1回目の審査で不認定とされた外国人の不服審査に当たる「難民審査参与員」を巡る恣意(しい)的な運用だ。弁護士や元検事、研究者ら111人の担い手がいる中で、特定の参与員に審査件数が偏っている実態が参院法務委で明らかになった。

 その一人、NPO法人「難民を助ける会」の柳瀬房子名誉会長は、2年前の衆院法務委で「難民と認定できる申請者はほとんどいない」と発言。政府が法改正のよりどころとして資料などでたびたび引用している。

 入管庁が1次審査で不認定とした判断を追認しそうな参与員に都合良く配分していたと勘ぐりたくなる。そんな状況で改正法が成立すれば、救済すべき外国人を誤って危険な母国へ送り返し、命の危険にさらすリスクが高まるばかりではないか。

 難民認定を巡る問題で透けて見えるのは、入管行政全般に通じる外国人への人権意識の欠如だ。

 2年前、スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋の入管施設で亡くなった問題が象徴的だ。最初に提出された改正案が廃案となるきっかけとなった。入管庁はこれを教訓に、入管施設へ常勤医を配置するなどの対策を講じた。

 ところが、先月末には、大阪入管の常勤医が酒に酔った状態で収容者を診察したと疑われる事例が発覚した。問題の根深さを突き付ける。

 外国人の人権を守れる制度や体制が整っているとは到底言えない。求められているのは、国家の人権意識を根本的に改めることだ。

(2023年6月6日朝刊掲載)

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