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連載・特集

緑地帯 細井謙一 お好み焼きが紡ぐもの①

 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で、広島のお好み焼きへの注目度が一層高まっている。国際メディアセンターや首脳配偶者にお好み焼きが振る舞われ、岸田首相夫人が韓国大統領夫人とお好み焼きランチを楽しんだ。極め付きはスナク英首相がお好み焼きを自ら焼くなど、多くのサミット関係者が味わった。

 G7各国にちなんだお好み焼きを提供する店も人気を博している。アメリカにちなんでお好み焼きをバンズで挟んだハンバーガー風、イタリアにちなんでトマトソースとチーズを使ったマルゲリータ風などさまざまだ。「お好み」の名のとおり、何でも受け入れる懐の深さが発揮された形だ。

 ただ、広島にはほかにも多くの名物がある中、なぜお好み焼きに注目が集まるのか。そのことを考える上で、森元良幸広島県警本部長の特別派遣部隊離県式でのあいさつが興味深い。広島出身の同氏は、G7サミットの警備をお好み焼きに例え、さまざまな具材を重ねて作る重層的な構造のお好み焼きのように重層的な警備ができた、各県に戻ってからもお好み焼きを食べて広島サミット警備を思い出してほしいとねぎらった。

 同氏が言うように、広島のお好み焼きは「重ね焼き」だ。しかしそこに重なっているのは、食材だけではない。広島に暮らす人、広島を訪れる人、それぞれの想(おも)いが重なったソウルフードなのだ。サミットで注目されたのも、お好み焼きに込められたソウルの部分なのかもしれない。(ほそい・けんいち 広島経済大教授=広島市)

(2023年6月7日朝刊掲載)

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