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社説・コラム

天風録 『ダムの重要性』

 山あいに水のアーチと奔流が現れる。膨大な水量で圧巻の光景。ぬれるのをいとわず見物客が集まってくる。ダムの放水は今や観光資源。国土交通省がツアーを開くほど。ご飯をダム、ルーを貯水池に見立てた「ダムカレー」も人気を呼ぶ▲皿上でカレーを流す「決壊」は無邪気だが、ひとたび本物から水があふれようものなら、下流域に甚大な被害が出る。春の放水には梅雨や大雨、台風に備え、あらかじめダムの水位を下げておく意味合いがあるという▲家々が押し流されていく。水浸しの一帯からボートなどで救出される住民の打ちひしがれた表情…。ウクライナ南部でダムが破壊された。発生した洪水が多くの集落をのみ込んだ。誰による暴挙か。原発の冷却水への影響も懸念される▲敵による攻撃だとロシアも主張する。いずれにせよ戦争犯罪と呼ぶべきものだろう。戦争中の国際法であるジュネーブ条約はダムや原発への攻撃を禁じる。住民の損失が重大なためだ。早くも死者多数との報道がある▲堤防への攻撃も条約は禁じる。洪水による被害がいかに恐ろしいかを物語る。戦時下でなくとも私たちは出水期を迎えた。インフラの点検や備えを怠らないように。

(2023年6月8日朝刊掲載)

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