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「家族伝承者」 使命胸に始動 尾形さん 祖父の体験 語り継ぐ

 家族の被爆体験を語り継ぐため、広島市が養成した「家族伝承者」が7日、中区の原爆資料館で初めて講話した。会社員の尾形健斗さん(32)=東区=が1期生で最初にデビュー。祖父の松原昭三さん(94)=同=に代わり「あの日」の記憶と平和への思いを自らの言葉で来館者へ伝えた。

 「おじいちゃんの体験を受け継ぐことは、僕にしかできない。魂を削って話してくれた胸の内をお伝えします」。被爆3世でもある尾形さんは約10人の聴講者を前にこう語り始めた。

 今の東広島市の実家にいた松原さんは原爆投下の翌日に親族を捜しに広島市内へ入り、焦げ茶色に焼けた性別も分からない遺体や防火用水の中で息絶えた人たちを見た。尾形さんは言葉をかみしめるように惨状を代弁。戦後、建築士として復興に携わり、米国での研修などを通じて「国と国の争いはあったが、人と人は分かり合えると知った」という祖父の思いも伝えた。

 「被爆者の気持ちを簡単に推し量れない。しかし知る努力は重ねられる」。尾形さんが約1時間の講話をこう締めくくると、会場から拍手が湧いた。訪れた被爆者の宇佐美節子さん(81)=安佐南区=は「若い人が被爆の実態を伝えてくれて感動した」と話していた。

 市は老いゆく被爆者の証言の掘り起こしと継承へ、家族伝承者の養成を昨年度に開始。1期生のうち7人が早期に研修を終えた。6月は、家族伝承者による講話が、8日午前10時▽20日午前11時半▽23日午前10時―に予定されている。1期生はほかに44人が研修を続けている。別に、被爆者の記憶を第三者たちが受け継いだ「被爆体験伝承者」も活動している。(川上裕、小林可奈)

(2023年6月8日朝刊掲載)

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