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社説・コラム

『潮流』 メディアの沈黙

■特別論説委員 宮崎智三

 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が終わって半月余り、改めて各紙の論調を読み比べている。考えさせられたのが、首脳声明の報じ方だ。

 ウクライナや軍縮・不拡散、経済、環境…。扱うテーマが多岐にわたるため、外務省による仮邦訳は39枚にも上る長さだ。各紙は、うまく縮めて要旨とするなど工夫して掲載している。

 気になったのは「ジェンダー」について、項目ごとすっぽり落としている新聞が複数あったことだ。

 この項目では、女性や性的少数者の権利擁護を目標に掲げている。欧州などに比べ、日本が大幅に遅れている分野だ。首脳声明の文言も、日本政府の尻をたたくような中身だった。十分に報じていたか、本紙も自問しなければならない。

 首脳声明のこの項目を載せなかった新聞社の真意はどこにあるのだろう。大事なテーマだとの認識が乏しかったのか。声明全体では他紙に負けないスペースを割いているのを見ると、黙殺した印象は否めない。

 思い浮かんだのは、芸能界に大きな影響力を持つジャニーズ事務所の創業者による性加害問題だ。四半世紀も前から疑惑は指摘されていた。にもかかわらず、メディアは一部を除き、沈黙を続けていた。

 英国の公共放送BBCの番組や、被害者による実名の告発を受け、ようやく報じるようになったのは今年春からだ。加害者とされる創業者が亡くなって3年余りが過ぎている。

 被害をなかったことにしようとしていた―。そう見られても仕方あるまい。被害者の口を重くさせてしまった恐れもある。本紙を含むメディアの沈黙が、批判されるのは当然だ。

 虐げられた人や、声の小さな人の視点を忘れていないか。被爆地の責務が問われた広島サミットで、メディアの役割についても改めて自戒させられた。

(2023年6月10日朝刊掲載)

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