×

ニュース

関東大震災映像 進むウェブ公開 9月1日で発生から100年 国立映画アーカイブ 所蔵フィルム

研究者と連携 場所・状況で分類

 映画の保存・研究・公開を手がける国立映画アーカイブ(東京)は、関東大震災(1923年)にまつわる記録映画をウェブ上に公開する「関東大震災映像デジタルアーカイブ」の拡充を進めている。地震発生から100年となる今年9月1日までに、所蔵する全ての関連フィルムの公開を目指している。被爆地として国内外へ平和の発信を続け、関連する記録映画のフィルムを多く持つ広島市にも参考になる取り組みだ。(渡辺敬子)

 当時の文部省が監修した「関東大震大火実況」(23年、64分)は白黒のサイレント映画。被災状況や官民の救護、復興の歩みを伝える。カメラは延焼する民家の炎や煙から逃げる人々、崩壊した建物、残骸の山を生々しく捉える。公会堂や寺など各地で上映された。

 このほか日活「関東大震災実況」(20分)、ハヤカワ芸術映画製作所「大正十二年九月一日 猛火と屍(しかばね)の東京を踏みて」(10分)など被災を物語る約20作品を所蔵。震災前や復興後の東京を撮った映画もある。

 サイトは国立情報学研究所(東京)と共同で2021年開設した。全編を通して視聴できるが、音声はなく、字幕も限られる。そのため災害史の研究者と連携し、撮影場所や状況別に分類した短い映像を検索・閲覧できるよう工夫した。「関東大震大火実況」は当時の資料を基に、新たな弁士の語りとギター伴奏で昨年開いた上映会の映像も公開した。

 映像作家や写真編集者たち各分野の専門家が映像を読み解くコラム、台本に相当する説明書など映画を深掘りできる関連資料も掲載する。https://kantodaishinsai.filmarchives.jp/

現場映す情報 広く共有 国立映画アーカイブ客員研究員とちぎあきらさん

 国立映画アーカイブの客員研究員とちぎあきらさん(65)に、デジタルアーカイブの狙いを聞いた。

 関東大震災は国民的な出来事で、救援活動への関心も高かった。当時の映画産業は大衆娯楽としてトップの動員力を持つメディアで、情報伝達の武器だった。国は社会教育の文脈で震災を記録し、全国に伝えようとした。新聞社などの義援金集めにも役立った。

 都市計画の下で復興が進む過程も撮り続けた。震災の記憶を忘れないため、毎年9月1日が来るたび、当時の映像を基にして新しい映画フィルムが作られた。

 無声映画は本編だけ見ても何が映っているか、いつどこで撮ったか分かりにくい。そうした「メタ情報」を資料を基に調べ、併せて公開した。私たちは映画史や映画技術には詳しいが、歴史的な分析は専門家の力を借りている。不特定多数のネットユーザーに公開することで、広い層から新しい情報が寄せられている。

 記録映画には文章や写真では分からない、映像ならではの情報の強さがある。震災当日の関東地方は台風の影響で強い風が吹き、「火災旋風」に巻き込まれた被災者もいた。直後の映像から、炎や煙の動きや風の強さが分かる。歴史上の出来事を知るために映像の活用が当たり前になれば、アーカイブの価値もますます理解されると期待している。

(2023年6月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ