×

ニュース

国際平和へ歴史に関心を 広島大でウクライナ出身歴史家講演

 ウクライナ・キーウ(キエフ)出身の歴史家で、日本への留学経験もあるオリガ・ホメンコさん(英国在住)が9日、東広島市の広島大東広島キャンパスで戦争と平和をテーマに講演した。国際平和の実現に向け、一人一人が身近な歴史に関心を持つことの大切さを強調した。

 ホメンコさんは、旧ソ連が進めた集団農場化による1930年代の大飢饉(ききん)や、第2次世界大戦末期の旧ソ連の西ウクライナ併合など母国の歴史を解説。「当時は情報が制限され、市民の苦しい歴史はあまり表に出なかった」と述べた。

 生活者の話に基づいて歴史を知り、長い歴史の文脈で戦争の背景を捉える重要性を指摘。ロシアによる侵攻で親しかった元同僚たちが犠牲になったことに触れ「皆さんも日本の今の平和に感謝しながら、祖父母に戦争の体験を聞いてください」と呼びかけた。

 広島大が、大学や企業、高校などと協働でグローバル人材育成を目指す国委託事業の一環で主催。広島県内外の学生や高校生たち約280人が会場やオンラインで受講した。教育学部4年小野郁紀(ふみのり)さん(22)は「今の戦争の解決策を考えるためにも、世界の歴史を知る必要があると感じた」と話していた。(教蓮孝匡)

過去を乗り越え成長しなければ ホメンコさん

 広島大東広島キャンパスで講演したオリガ・ホメンコさんに、被爆地広島での講演に込めた思いやウクライナ情勢への見解を聞いた。

  ―広島では初めての講演です。
 戦争と核の恐ろしさを知る特別な地で、これからの世界を担う若者たちに話ができるのはうれしい。20年以上前に原爆資料館(広島市中区)を見学し、原爆被害に衝撃を受けながら、母国でのチェルノブイリ原発事故との共通点を感じた。広島から医療支援など多くの厚意があったことに感謝している。

  ―講演では歴史を知ることの大切さを説きました。
 ウクライナも広島も「歴史的な大きなトラウマ(心的外傷)」ともいえる過去を乗り越え、成長していかなければならない。日本では、体験を語れる被爆者が減ってきている。過去を忘れることは、繰り返すことにつながりかねない。若者には、家族の戦争体験に耳を傾けてほしい。

  ―ウクライナ情勢について今、願うことは。
 ロシアから「持ち込まれた戦争」を早く終えてほしい。私たちは、戦うことをやめたら、国も人も存在がなくなるかもしれない恐怖の中にいる。平和な日常が消えてしまった。チェルノブイリ原発事故当時、学校単位での集団避難生活を送った。3カ月後、家族の元に戻ったときの安心感は忘れがたい。市民も戦地の兵士も早く日常を取り戻せるよう、国際的支援を続けてほしい。

(2023年6月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ