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社説・コラム

[歩く 聞く 考える] サミットと民主主義 こぼれ落ちた声こそ政策に 核廃絶ネゴシエーター 高橋悠太さん

 広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、政治リーダーに向けて核兵器廃絶を訴え、政策に盛り込ませようと努めた若い世代の姿があった。市民社会の多様な声を受け止める民主主義の土壌は感じられたのか。核政策を知りたい広島若者有権者の会(カクワカ広島)共同代表で、「核廃絶ネゴシエーター」と名乗って提言や働きかけを続ける高橋悠太さん(22)=横浜市=に見えた課題を聞いた。(論説委員・高橋清子、写真も)

  ―G7首脳への市民サイドからの政策提言に関わりました。
 市民社会の連携は大きな成果です。提言を担う「C7」での核廃絶の議論に、地域紛争が絶えないアジアやアフリカの非政府組織(NGO)も加わりました。戦争が核兵器の脅威を呼び、最も被害を受けるのは弱い立場の自分たちだとの訴えを聞き、身につまされました。

  ―視野が広がりますね。
 核政策はとかく、核保有国や被爆国の日本など世界の一部で議論しがちです。こぼれ落ちた視点があり、核兵器や原発を開発、廃棄する過程で放射性物質にさらされた核の被害者は世界中にいます。環境やジェンダー分野で活動する国内のNGOの方々に、核政策は何も安全保障や政治の問題ではなく人権の問題なのですね、と言われました。核廃絶の必要性を広く共有できたのは大きいです。

  ―G7首脳が出した核軍縮の文書「広島ビジョン」は、市民社会の気付きとは真逆でした。
 防衛のための核兵器容認は被爆者の訴えに反し、落胆しました。核兵器禁止条約に触れなかったのは、核政策の議論に被害者や持たない国、市民の声を入れる意思がないのでしょう。

  ―記者会見で「保有国に平和記念公園が占有されてしまった」と例えましたね。日本のかじ取りをどう見ましたか。
 議長国の裁量は非常に大きいです。核の「非人道性」を文書に盛り込むなど保有国が抵抗する高い目標を示し、議論を促すこともできたはず。なのに初めから現状追認で核軍縮の行動の積み上げを怠りました。

  ―市民社会を軽視するような運営も気になりました。
 政府の姿勢の表れです。取材拠点の国際メディアセンターで豪勢なもてなしをする一方、近くに拠点を置くNGOには冷たく、センター内の掲示スペースすら撤去しました。オーストリア・ウィーンで昨年あった核兵器禁止条約第1回締約国会議と対照的。外交官もNGOも記者も同じ場所から出入りする会場でした。等しく扱い、それぞれの声が大事との意思表示です。

  ―日本は日常的に権力側が市民と対話する土壌が薄いです。
 声を上げられない人を支えるのがNGOの役割です。その価値観を尊重しないのは、民主主義はその程度でいいと政治が捉えているからだと感じます。

  ―学生団体を相次ぎ設立しました。原動力は何でしょう。
 今の大学生や高校生は望まないのに生まれた時には万単位の核兵器が存在していました。先行世代が生み出し、若い世代がツケを払わされています。気候変動と同じです。それなのに私たちは核政策の議論に参画できていません。高齢の男性や既得権益層によって議論が集約されていて違和感があります。

  ―「私たち」とは、若い世代や当事者、女性たちですね。
 社会で押しつぶされてきた人が声を上げ、支援の輪が広がる活動が相次いでいます。性被害を告発する「#Me Too」運動は、今ある不正義を訴えました。核問題でも広島、長崎だけでなく、あらゆる核被害の不正義を問う視点が要ります。

  ―サミット前、カクワカ広島は被爆者団体と意見交換し、岸田文雄首相宛てに共同で提言書を届けました。
 若い世代の意見として、ジェンダー不平等や環境への負荷など、今まで見過ごされがちな核被害にも目を向けるよう求めることを粘り強く提案し、盛り込まれました。被爆者たち中心にいる人以外の声を入れることが大事だと思ったからです。

  ―核廃絶ネゴシエーターとしての活動を本格化させますね。
 専門的な知見を持った上で的確に情報発信し、現場から問題提起し、さまざまな活動をコーディネートする役割を意識しています。市民社会の必要性を身を持って示します。

■取材を終えて

 権威主義で凝り固まる社会を解きほぐし、私たちの手で社会をつくりたいと言う。核政策にとどまらず、今の日本に潜む課題に向けたまなざしでもある。

たかはし・ゆうた
 福山市生まれ。2013年盈進中高に入学、ヒューマンライツ部で被爆者の故坪井直さんの証言を聞き取る。19年に核政策を知りたい広島若者有権者の会を設立。慶応大在学中の21年に「KNOW NUKES TOKYO(ノーニュークストーキョー)」を設立し、翌年の核兵器禁止条約第1回締約国会議などで現地入りした。卒業後の23年5月に一般社団法人かたわら代表理事。

(2023年6月14日朝刊掲載)

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