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連載・特集

緑地帯 細井謙一 お好み焼きが紡ぐもの④

 広島市中心部で屋台村ができた頃、住宅地にもお好み焼き店が広がっていく。副業としてかき氷を提供していた主婦が、冬場の仕事として開業するケースも多かったようだ。見よう見まねの自己流だったり、食品問屋などの支援を受けたりしながら、自宅の軒先を改装して開業する店が多かった。

 こうした住宅街のお店は、ご近所さんが営む店という気安さからか、地域住民が集う場となり、地域コミュニティーにとっても重要な存在になっていく。学校が半ドンの土曜日は子どもだけで食べに行ったとか、学校が終わると近所の店で宿題をしながら親の帰りを待ったといったエピソードもよく聞かれる。お好み焼き店の店主自身がその地域の住民であることも多く、子どもだけでも安心して行ける場所だったのだ。

 地域コミュニティーの核としての役割は、現在でも続いている。地域の高齢者が集う店、何世代にもわたって常連さんが通い続ける店といった典型例だけではない。カープファンの集う店、サンフレッチェのファンの集う店、店主の趣味の仲間が集う店、ペット同伴可でペットオーナーが集う店など、さまざまなコミュニティーの核となっている。さらに最近では、子ども食堂として活動する店もある。地域コミュニティーの崩壊が危惧される中、お好み焼き店は地域コミュニティーの活性化にも貢献しているのだ。

 広島に暮らす人は、誰もが行きつけのお好み焼き店を持っているといわれる。お好み焼きは、広島の暮らしと社会に密着した食べ物なのだ。(広島経済大教授=広島市)

(2023年6月14日朝刊掲載)

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