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連載・特集

中国新聞「読者と報道委員会」第64回会合 詳報

時流を読み伝え方多彩に

広島大名誉教授 森辺成一さん

弁護士 平谷優子さん

NPO法人尾道空き家再生プロジェクト代表理事 豊田雅子さん

 中国新聞の報道について社外の有識者が提言する「読者と報道委員会」の第64回会合が6日、広島市中区の中国新聞ビルであった。広島大名誉教授の森辺成一さん(65)、弁護士の平谷優子さん(52)、NPO法人尾道空き家再生プロジェクト代表理事の豊田雅子さん(49)の3委員が、5月に市内であった先進7カ国首脳会議(G7サミット)や4月の統一地方選の報道、中国新聞の小中学生向けニュースサイト「ぶんタッチ」をテーマに編集局幹部たちと議論した。(司会は高本孝編集局長)

広島サミット

英語での発信に意義 森辺さん

連載 心揺さぶられた 平谷さん

ラッピング紙面 感激 豊田さん

  ―G7サミットでは、核軍縮をはじめとした課題の発信▽広島県民、市民のレガシー(遺産)づくり▽市民生活への影響―を3本柱に報じました。被爆地開催の意義や復興史、核を巡る被爆地の視座を特集や連載で展開。取材の蓄積とデジタル技術を組み合わせ、新たなコンテンツも作りました。
 森辺さん 中国新聞が総力を挙げて報じたと思う。英語での発信に意義があった。新コンテンツでは地図上でクリックすると有名な写真が出てきた。使い勝手が良かった。視覚的に訴えた。

 G7首脳が被爆の実相に触れ、核兵器なき世界に踏み出すのが広島の願いだ。だが、市民がどれだけ被爆体験を継承できているかはいささか心もとない。その意味で、たくさんの連載は、われわれ自身が改めて被爆の実相に触れ、継承する機会になった。

 原爆による医療崩壊の怖さや未解決の黒い雨、外国人被爆者について知ることができた。G7首脳に知らせると同時に、私たちのためにもなった。ただ、広島の復興から教訓を伝える企画で、暴力団の追放を取り上げていたのには違和感があった。あまりにも広島に特殊な話だ。

 平谷さん 連載「広島サミット 原点の地で」が印象に残った。実際に広島で生きた人の話一つ一つを通して、人生を教えてもらった。心を揺さぶられた。私たちが苦しくなるような記事だが、向き合うべきだ。英語でも配信してほしい。

 世界がサミットをどう捉えているかという点では、海外メディアのコメントを紹介した記事が興味深かった。必ずしも好意的なだけでなく、冷めた意見も伝えてくれた。

 一方、記事の量が多く、整理するのに項目見出しがないと分からなくなってしまう。市民活動やサミットの議題、専門家の意見、経済の話などは読めば分かるが、テーマごとの見出しがあると助かる。

 また、サミットで影響を受ける市井の人々がどう思い、迎えようとしているのかを伝える記事が少なかった。核問題では、科学者の意見があると複層的になり、より良かった。中国新聞としてサミット全体をどう考えているかも、もう少し知りたい。じっくり総括してほしい。

 豊田さん ラッピング紙面は取っておこうと思う。見せ方がすごく上手だった。初日は子どもの顔が一つ一つ見える昔の写真から、こういう生活がこの場所であったと伝わった。次の日、一面焼け野原の写真が載った。原爆が落ちる前と当日を体験したようだった。3日目は原爆ドームに光が差し込む写真で、これからの未来を明るく感じさせてくれた。美しさに感激した。

 ロシア語訳を付けた被爆者のサーロー節子さんの記事(ヒロシマの声)は素晴らしい。広島の新聞社の意義が伝わった。サミット開幕までをカウントダウンする「@ひろしま」も好きだった。トリビア風で、知っているようで知らないことを毎日教えてもらった。

統一地方選

短い文章で伝わるか 森辺さん

候補の考え より深く 平谷さん

大規模買収 追及した 豊田さん

  -4月の統一地方選では「政治とカネ」問題への追及を続けたほか、各地域での課題を掘り起こす連載を展開しました。
 平谷さん 中国新聞デジタルに載せた広島市議選の候補者アンケートは、候補者が何を考えているのかが分かる面白い取り組みだった。ただ、質問が比較的単純でその答えも単純だった。読者は候補者の「はい」「いいえ」だけでなく、なぜそう思うのかという理由を知りたい。重要議題への賛否や質問内容など議員の普段の仕事ぶりを、新聞を通じて伝えると投票に向かいやすくなる。

 豊田さん (2019年の参院選広島選挙区を巡る)大規模買収事件をうやむやにせず追及していた。被買収とされる候補者の動向や投票結果を表で示し、市民やメディアが見ているんだとけん制になっていた。中国地方5県の県議会の男女比や年代別のグラフは、県別で比べられ分かりやすかった。市議会単位でもあると、よその市町との比較もできて参考になる。

 森辺さん 「政治とカネ」に関する一連の記事は読み応えがあった。選挙後の社説で「またしても大きな争点にはならなかった」と書いてあったが、被買収とされる候補者の得票数が前回選より減るなどインパクトはあった。広島県議選の情勢分析の記事について、候補者一人一人の所属政党や支持母体、政策の訴えを短い行数で書くのはすごいこと。ただ、労力を費やしている割に読者には伝わりにくいのではないか。中国新聞デジタルを使って過去の業績や政策に関する考えを載せると、候補者選択の一助になる。

ぶんタッチ

子どもの工夫楽しい 森辺さん

防災の学習に役立つ 平谷さん

安心感をPRしては 豊田さん

  ―ぶんタッチは小中学生の学びに役立つウェブサイトです。地方紙の記事や写真は地域の調べ学習の副教材になると考えて開設し、今春で1周年を迎えました。投稿欄も用意しています。子どもたちが調べ、考え、発表する新たな学び方を提案したいと思います。
 豊田さん 写真が多く動画も付き、現代っ子向き。災害の記事が市町別に載るなど検索しやすい。今は情報が氾濫しフェイク画像も多いので、中国新聞が出す保証付き記事、画像の安心感をもっとPRしたら教材として使う学校も増えるのではないか。

 森辺さん 投稿欄は作品から子どもの工夫が伝わり、見ていて楽しい。一度サイトを訪れた子どもが続けて見たくなるよう、開くたびに出題されるクイズや毎週更新される連載を加えてはどうか。

 平谷さん 災害について分かりやすく、学習に役立つ。広島県の防災のページにリンクしてもよいのではないか。ただ、授業向けにはいいが、子どもたちが日々ネットで触れるものと比べると、ちょっと堅い。授業以外でも使ってもらうために、子どもたちのアイデアも取り入れたら、もっと親しみやすいページになると思う。

もりべ・せいいち
 1958年大阪市生まれ。名古屋大大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。広島大法学部教授、同大大学院人間社会科学研究科教授などを経て2023年4月から同大名誉教授。専門は日本政治史。著書に「道州制―世界に学ぶ国のかたち」(共著、成文堂)など。三次市行政チェック市民会議会長、中国地方社会保険医療協議会会長。広島市東区在住。

ひらたに・ゆうこ
 1970年広島市安芸区生まれ。広島大大学院社会科学研究科博士課程前期修了。98年弁護士登録。離婚や親権、ドメスティックバイオレンス(DV)、児童虐待などの事件を担当。広島県教育委員会教育委員、広島弁護士会副会長などを歴任し、日弁連子どもの権利委員会幹事。NPO法人理事として子どもシェルターの運営に携わる。広島市在住。

とよた・まさこ
 1974年尾道市生まれ。関西外国語大外国語学部卒。旅行会社添乗員として各国に渡航。帰郷後、古民家(現尾道ガウディハウス)を購入し、改修に着手。尾道空き家再生プロジェクトを設立し、2008年NPO法人化し代表理事に。ゲストハウスなどを運営、市の空き家バンク事業も受託して移住者を受け入れる。尾道市総合戦略評価委員。尾道市在住。

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編集局から

核なき世界へ思い込め

 G7サミット開幕に合わせ、3日続けて朝刊ラッピング紙面を作った。初日の17日には原爆で亡くなった子どもたちの生きた証しを伝える12枚の写真を載せた。「人間的悲惨」に首脳たちが向き合い、核兵器も戦争もない世界へ一歩を踏み出してほしいとの思いを紙面に込めた。

 多くの県民がサミットを支え、規制に伴う我慢も強いられながら、大きなトラブルもなくサミットを終えられた。原爆資料館を訪れた首脳たちが芳名録へ刻んだ核兵器廃絶への思いや、原爆慰霊碑の前で見せた厳粛な表情には開催意義を見いだせた。

 ただ、核軍縮に関する文書「広島ビジョン」は核抑止の堅持を掲げ、被爆者たちを失望させている。「核兵器のない世界へ取り組む決意を共有した」という首脳たちの行動が今後も問われる。(報道センター社会担当・岡田浩平)

地方自治考える機会に

 統一地方選報道は、まず「政治とカネ」に焦点を当てた。2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、「被買収」議員の多くが4年前の統一選前後に「陣中見舞い」や「当選祝い」として現金を受け取っていた。政治不信を招く舞台になった選挙。立候補者が「政治とカネ」にどう向き合い、何を訴えているかを伝えたかった。

 また、統一選は身近な政治課題がテーマになる。新型コロナウイルス対応や共生社会、人口流出などの課題を、自治体と住民のそれぞれの視点から連載や企画を展開した。複層的に有権者が地方自治を考える機会になればとの思いからだ。

 1970年の統一選から始めた中国地方の全市町村の首長、議長のアンケートは14回目。議員のなり手不足の悩みが4年間でいっそう進んだ現状などを浮き彫りにした。(報道センター社会担当・藤村潤平)

教室のニーズに応える

 ぶんタッチは、小中学生の学びに役立つ記事を集めたウェブサイト。新聞に触れて―との願いを込めて名付け、この春、オープン1周年を迎えた。タブレット端末などから、無料で誰でも見ることができる。

 学校では近年、調べ学習が盛んだ。子どもが地域の文化や産業、課題への理解を深めようとするとき、地元紙の情報は、確かで新鮮な「副教材」になるのではないか。ウェブの収容力と検索性を生かし、教室の幅広いニーズに応じたい。そんな視点で記事を日々更新。最近では広島サミットの解説にも力を入れた。今後は防災や環境をテーマに記事をそろえていく。

 投稿欄もあり、絵や作文の力作、ほほ笑ましい川柳などが満載だ。子どもたちが、得意なことや頑張ったことを発表できる場を提供するのも、大切な役割だと受け止めている。(デジタルチーム・奥田美奈子)

(2023年6月14日朝刊掲載)

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