×

連載・特集

緑地帯 細井謙一 お好み焼きが紡ぐもの⑤

 G7広島サミットで注目された広島のお好み焼きだが、既に海外にも広がっている。特に普及が進んでいるのはアメリカで、ちんちくりんはロサンゼルスに3店舗を構え、堂々たる人気店となっている。メキシコのレオンではSatoという鉄板料理店でお好み焼きが提供され、人気メニューとなっている。

 海外での人気は、ピザ、タコス、ガレットなど世界中にお好み焼きに似た料理があることも一因だろう。中国の煎餅(せんびん)がお好み焼きの遠い祖先といわれることもある。また日系人が多い地域では、イベントなどでお好み焼きがふるまわれる機会も多いようだ。メキシコにはマツダが進出していることもあり、広島との交流も盛んだ。よく似た食文化があるとか、広島と何らかの交流があることが、普及の一因なのかもしれない。

 実は私も、海外でお好み焼きの普及活動に何度か参加している。2016年にエルサルバドルから講演依頼があった時には、長い内戦で疲弊し、経済状態も治安も悪いこの国でなぜ?と思った。空港まで大使館職員が迎えに来て、どこに行くにも武装した警備員の乗る護衛車付きで、一人で出歩くことも許されない。こんな状況でお好み焼きの話など本当に聞きたい人がいるのかと半信半疑だった。

 しかし、そんな国だからこそ意味があった。原爆ですべてを失って、復興とともに現在の形になっていくお好み焼き。広島のお好み焼きは平和と復興のシンボルなのだ。そんな話に聞き入り、喜々としてお好み焼きを食べる、現地の人たちの笑顔が忘れられない。(広島経済大教授=広島市)

(2023年6月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ