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連載・特集

緑地帯 細井謙一 お好み焼きが紡ぐもの⑥

 広島のお好み焼きは、広島観光の顔でもある。2018年に広島市が実施した来訪観光客アンケートでは、来訪者の82・09%がお好み焼きを食べている。ご当地お好み焼きも増えており、広島てっぱんグランプリ初代優勝の府中焼きを筆頭に、尾道焼き、三次唐麺(からめん)焼、庄原焼き、三原焼き、竹原焼き、呉焼き、因島のいんおこなど、地域活性化にも一役買っている。

 人気の理由は、美味(おい)しいというだけではない。マスコミやSNSで名物として喧伝(けんでん)され、その名物を求める観光客が修学旅行やパックツアーなどで送り込まれるというビジネスの仕組みも重要だろう。  お好み焼きは広島観光の性質と合致する。広島観光には、平和学習的な要素が必ず入る。原爆ですべてを失った悲惨な体験と復興の歩みを知ることで、平和の尊さを知る。広島のお好み焼きは、その平和と復興の象徴でもあるのだ。

 もちろん、できすぎた話もある。例えば、お好み焼き店の店名に「ちゃん」が付くのは、戦争で夫を亡くした女性が、家族が復員した際に見つけやすいように自分の愛称を使ったものだという説だ。実際にはそうした女性がお好み焼き店を切り盛りして一家を支えたという例はほとんどないし、「ちゃん」というのは男性店主の愛称だったり、家族の愛称だったり、あるいは名字に由来する愛称だったりする場合が多い。

 ただ、それが創られた美談だとしても、そんな苦難を乗り越えて復興を成し遂げたのだという想(おも)いや誇りは本物だろう。広島のお好み焼きを観光客が食べる時、お好み焼きに込められたそんな想いもまた伝わっていくのだ。(広島経済大教授=広島市)

(2023年6月16日朝刊掲載)

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