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社説・コラム

社説 陸自候補生銃撃 背景に踏み込み解明を

 強力な武器を扱う自衛隊で、絶対にあってはならない事件が起きた。岐阜市にある陸上自衛隊の射撃場で、実弾訓練中に18歳の自衛官候補生の男が自動小銃で男性隊員3人を銃撃し、52歳の教官と25歳の隊員が死亡、別の隊員1人がけがをした。

 殺人容疑できのう送検された男は4月に入隊したばかり。教官に𠮟られたといった内容の供述をしており、標的にした可能性があるという。わずか2カ月半の間に何があったのか。動機の解明が急がれる。陸自と防衛省は、二度と繰り返さないよう組織風土などの背景にも踏み込み徹底的に調査するべきだ。

 男は、他の3人と同じ名古屋市の守山駐屯地の所属。基礎的な訓練を経て今月中に期限付きで正式任用される予定だった。凶行に及んだのは実弾を用いた全4回の射撃訓練の最終日。上下関係のトラブルや悩みを抱えていたのかもしれない。

 何より問われるのは、訓練に際しての安全管理の在り方だ。新隊員には入隊直後に小銃が貸与される。分解して組み立てたり、射撃の動作を反復したりして安全な撃ち方を覚えてから、実弾を用いた訓練に入るという。隊員教育では隊員の心情把握に意を注ぎ、人間関係や意思疎通に問題がないかも注視。陸自幹部は「異常があれば実弾射撃などさせない」とする。

 こうした目配りのほか、射撃訓練時の手順は確実に実行されていたのだろうか。射撃場では候補生一人一人に指導役が付き、射撃位置に付いてから弾倉を装塡(そうてん)する。男は射撃の順番を待っていた際に銃撃したとの情報もある。実弾を渡すタイミングは適切だったかなど幅広い視点で点検する必要がある。

 1984年には山口市の陸自山口駐屯地の射撃場で、小銃の乱射事件が起きた。当時21歳の隊員が訓練中に発砲し、4人が死傷。撃った隊員は約5時間逃走し、地域も巻き込む事件となった。その後、心神喪失状態だったとして不起訴になっている。この事件を受けて、隊員一人一人がどんな状況にあっても人に銃口を向けることがないような安全管理の仕組みを整えたのではなかったか。

 約40年を経た今、少子高齢化の影響などで自衛隊の採用環境は厳しさを増している。

 2018年には18歳以上27歳未満だった自衛官候補生の応募資格を33歳未満までに引き上げ、門戸を広げた。それでも21年度は計画の8割強しか採用できなかったという。人材確保に苦しむ実態が採用基準の引き下げにつながっていないか、チェックも必要だろう。

 パワハラやセクハラ被害も絶えない。これまでに被害者側から多くの訴訟が提起され、自衛隊側の敗訴が目立つのも事実だ。昨年は元自衛官の女性が在職中に性被害を受けていた問題も発覚し、男性隊員5人が懲戒免職となった。被害一掃はもちろん、若い隊員がトラブルや悩みを抱えていないか把握する手だてを再検討するべきだ。

 陸自では4月に沖縄県宮古島付近でヘリコプターが墜落し、熊本市に司令部を置く第8師団の師団長らが死亡する事故も発生した。重大な不祥事が相次ぐ事態に正面から向き合い、真相を公にした上で有効な防止策を打ち出さない限り、国民の信頼は取り戻せない。

(2023年6月16日朝刊掲載)

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