×

ニュース

沖縄戦の記憶 インスタ発信 山口県周防大島出身の武藤さん 大学生たちと運営 等身大のメッセージ

 「100年先まで残したい沖縄」を目指し、地元の若い世代が情報発信するインスタグラムのアカウントがある。山口県周防大島町出身の武藤瞳さん(33)=浦添市=が大学生たちと運営する「サステナブルオキナワ」だ。観光やグルメ情報の一方で、沖縄戦の記憶を投稿する。普段は話しにくいテーマこそインスタで。「戦争がここであったこと」を自分ごととして考える一歩にしたいと願う。(栾暁雨)

 「沖縄から1分だけ音が消える日」。昨年6月23日の「慰霊の日」に投稿したタイトルだ。会社も学校も休みになり、静かに祈りをささげる日。投稿への「いいね」数は2万を超え、俳優の二階堂ふみさんやタレントryuchellさんがシェアし、拡散された。

 武藤さんの母親は広島出身で親戚に被爆者がいる。小学校の図書室で漫画「はだしのゲン」を夢中で読み、広島との心理的な近さを感じていた。だから大阪で看護師として働いていた20代、原爆が投下された8月6日を周りの誰も知らないことがショックだった。

 だが「知らない」のは自分も同じだった。沖縄慰霊の日である6月23日は、1945年、上陸した米軍と旧日本軍の組織的な戦闘が終わったとされる日。結婚を機に移り住んだ7年前まで知らなかった。

 広島で、沖縄で、大切にされてきたことは別の地域では当たり前ではない。戦争の記憶は薄れ忘れられていく。そのもどかしさが原動力だ。「沖縄戦では県民の4人に1人が命を落とした」「4人に3人が6・23を知らない」…。そうつづった投稿に沖縄戦前後の年表も添えた。記憶をつなぐため「歴史を知る」大切さを共有したかった。

 沖縄の若い世代も6月23日を特別だと思っている。メンバー當間(とうま)佳奈さん(23)は「おじい、おばあから沖縄戦の話を聞いてきた人は多い。平和のために何かしたいけど、方法が分からない。そんな思いをすくい取れたと思う」と手応えを語る。

 武藤さんは、交流サイト(SNS)の可能性も感じている。子どもの頃の平和学習は「受け身だった人も多いはず」。自ら情報を求めて見るSNSなら「自分ごととして捉えやすい」と考えている。

 ページを繰りたくなり、シェアしたくなる投稿が目標だ。等身大の親しみやすさの中にメッセージを盛り込む。「これを読め」と上から目線では届かない。「『戦争体験って、なぜ語り継がなきゃいけないんだっけ? 話し合おうよ』くらいのテンションでいいんです」

 「観光情報のまとめサイトなら無数にある」と武藤さん。貧困や基地問題など「重めな問題」もテーマにしてきた。今後は、戦争被害を受けた都市の連携をにらむ。広島、長崎、沖縄、大空襲で焼かれた東京…。ロシアがウクライナに侵攻し核の威嚇をちらつかせる。「惨禍の記憶を共有し、戦争を止めるうねりにしたい。命(ぬち)どぅ宝ですから」。沖縄発のメッセージがより重みを増している。

<サステナブルオキナワ>
 2021年、インスタグラムにアカウントを開設。沖縄の自然や観光、グルメといった話題を発信する。フォロワー1万6千人。大学生や社会人約50人で運営する。

(2023年6月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ