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社説・コラム

社説 防衛財源法 責任ある政治には程遠い

 財源をあやふやにする手法には疑問が拭えない。

 防衛費増強の財源を確保する特別措置法が成立した。岸田政権が昨年末に決めた、防衛費を国内総生産(GDP)比2%へ大幅に増やす方針に沿った対応である。2023~27年度の防衛費は43兆円に膨れ上がると見込まれている。

 特措法で、23年度予算に計上された4兆5919億円の税外収入が「防衛力強化資金」として複数年にわたって活用されることになる。だが、国有財産の売却などの税外収入は本来は1回限りのはずだ。将来にわたる安定財源とはなり得ない。

 恒久的財源の裏付けがなく、予算に見合う規模が確保できなければ、結局は国債発行という形で国民にツケが回る。これではあまりに無責任だ。

 政府は特措法に加え、増税、歳出改革、決算剰余金と合わせた4本柱で防衛費増に対応する考えだ。ところが、おとといの法成立後に閣議決定した骨太方針では、増税について「24年以降の適切な時期」から「25年以降のしかるべき時期とすることも可能となるよう、柔軟に判断する」と早くも文言を改めた。世論調査で反対が強い防衛増税を、その場しのぎで先送りしたい思惑が透けて見える。

 そもそも大幅な増額が必要なのだろうか。総額が先行し、必要な予算の積み上げが後回しになっている現状をみれば、なおさらだ。ロシアのウクライナ侵攻で高まった国民の不安につけ込み「敵基地攻撃能力」(反撃能力)保有の議論もなし崩しに進められている。平和国家として守ってきた専守防衛の原則を逸脱しかねない。

 GDP比2%になれば米国、中国に次ぐ世界3位の規模まで防衛費は膨らむことになる。それが妥当だろうか。歴代政権が尊重してきた1%枠を、あっさり捨て去る政権の姿勢は、平和国家としての重みを忘れたと言われても仕方あるまい。

 国と地方を合わせた借金は1200兆円を超えている。日本の財政赤字は先進国で最悪であり、今回の骨太方針にもコロナ禍で膨れ上がった予算規模を、平時に戻すことがうたわれたのは当然だろう。

 歳入に見合った歳出に収める議論や努力が最優先される局面だ。にもかかわらず、岸田政権が財源論を後回しにしているのは、何も防衛費に限ったことではない。政権の政策の柱である、少子化対策や脱炭素の取り組みを加速するGX(グリーントランスフォーメーション)対策も同じようなものである。

 岸田文雄首相は、骨太方針までに示すとした、少子化対策の財源論も年末まで持ち越した。

 政府は「GX経済移行債」を20兆円も発行する。温暖化対策は欠かせないとしても、巨額の財源を借金で手当てすることにはより慎重さが求められる。

 岸田首相は昨年末、防衛費増額の財源として増税を行うことを「将来世代に先送りすることなく、今を生きるわれわれが将来世代への責任として対応すべきものと考えた」と述べた。その決意はどこに行ったのか。

 聞こえのいい「倍増」フレーズを繰り返し、政策規模をアピールするだけでは国民の信頼はとても得られまい。財源議論を棚上げする政治手法は、あまりに無責任過ぎる。

(2023年6月18日朝刊掲載)

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