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連載・特集

緑地帯 細井謙一 お好み焼きが紡ぐもの⑦

 広島のお好み焼きは一大産業だ。お好み焼き店は、広島県で約1300店とコンビニとほぼ同じ、広島市に限ってみれば900店弱とコンビニの倍近い数だ。

 なぜこんなに大きな産業になったのだろうか。そもそもお好み焼きは広島の伝統的な食文化とは全く関係がない。元々広島特産のものが入っていたわけでもなく、地理的特性とも関係がない。

 それなら、ビジネスによって創られた伝統だとも考えられるが、そこにも謎がある。戦後の食糧難の時代でも小麦粉が比較的入手しやすかったのは確かだが、そのため全国的に普及するのは、お好み焼きではなくラーメンだ。同じお好み焼きでも、関西風の方が効率のいい商売になる。焼くのも食べるのも時間と手間がかかる広島の重ね焼きは、合理性優先というビジネスの大原則に反するものだ。

 ただ広島には、お好み焼きがビジネスとして成功しやすい生態系(ビジネス・エコシステム)がある。お好み焼き専用のソース、麺、調理器具などのメーカーがあり、観光の目玉として自治体あげてお好み焼きを宣伝し、旅行代理店などが観光客を送り込むという仕組みができあがっている。このエコシステムが成立している地域にいる限り、お好み焼きというビジネスは、むしろ合理性が高いビジネスということになるわけだ。

 とはいえ、このビジネス・エコシステムも、一朝一夕にできあがったわけではない。お好み焼きが広島のソウルフードだという時、そこには消費者の想(おも)いだけではく、この産業をつくり上げてきた人たちの想いも込められているのだ。(広島経済大教授=広島市)

(2023年6月17日朝刊掲載)

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