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岩国の米兵 有罪判決 車盗み飲酒運転 「悪質で身勝手」 地裁岩国

 岩国市内で車を盗んで飲酒運転し、人身事故を起こしたとして建造物侵入と窃盗、自動車運転処罰法違反(過失傷害)などの罪に問われた米軍岩国基地(岩国市)の海兵隊員ドミニク・グリフィン・ヤングレン被告(21)の判決公判が16日、山口地裁岩国支部であった。岡田総司裁判官は懲役2年6月、執行猶予4年(求刑懲役2年6月)を言い渡した。

 岡田裁判官は「ガラスを破って自動車販売店に侵入し、鍵を物色して車を盗んだ。乱暴、悪質な犯行で、被害弁償は一部にとどまる」と指摘。酒に酔って運転して2人にけがを負わせた追突事故について「自己保身を理由に申告せず身勝手」と断じた。一方で「罪を認め、酒を断つと述べ反省している」と執行猶予の理由を説明した。

 判決によると、ヤングレン被告は2022年12月3日午前7時10分ごろ、岩国市内の自動車販売店に侵入して車(530万円相当)を盗み、酒に酔った状態で運転。乗用車に衝突して2人にけがを負わせ、警察に報告せずに逃げた。

 岩国基地報道部は「深刻に受け止めている。米国の法律に基づき、ヤングレン兵長に処分を下す」とコメントした。

地位協定 課題色濃く

 米軍岩国基地の海兵隊員が車を盗んで飲酒運転し、人身事故を起こした事件は執行猶予付きの有罪判決が出た。事件発生から公判までの過程で米兵の犯罪への対応を定める日米地位協定の課題が改めて浮かんだ。

 懲役2年6月の求刑に対し、山口地裁岩国支部は懲役2年6月、執行猶予4年を言い渡した。米兵の犯罪に詳しい日本大政経研究所の信夫(しのぶ)隆司研究員(日米外交史)は「裁判所も一定に重く受け止めている。事故の被害者が重傷に至らず、執行猶予が付いたのでは」とみる。

 昨年12月の事件発生後、被告は米軍岩国基地へ逃げ込んだ。岩国署は、逮捕せず任意で事情を聴いた。理由について「逃走、証拠隠滅の恐れがない」と説明する。今月の初公判まで約6カ月かかった。

 一方、今年4月2日に別の海兵隊員の男が飲酒して車を盗んだとされる事件では、岩国署が発生直後に男を現行犯逮捕。約3カ月後の今月27日に初公判が予定される。結果的に、二つのケースでは、被告が法廷に立つまでの時間に差が出た。

 地位協定では公務外の米兵の犯罪は原則、日本側が起訴するまで米側は身柄を引き渡さなくてよい。信夫研究員は「身柄がないと十分に取り調べができず、必要な供述、証拠が得られない可能性もある」と指摘する。

 公判で被告は「酒に酔って覚えていない」と繰り返して動機が解明されず、車の弁償のめども立っていない。車を盗まれた男性(38)は「執行猶予付きは無罪みたいなもの。基地のある町に安心して住めない。早く弁償を」と憤る。

 日米両政府は地位協定を巡り、殺人など凶悪犯罪では起訴前に日本側へ身柄を引き渡すなど運用を改善してきた。信夫研究員は「飲酒運転やひき逃げなどの悪質な犯罪では、身柄を引き渡すよう、粘り強く交渉する必要がある」と説く。(黒川雅弘)

(2023年6月17日朝刊掲載)

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