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連載・特集

緑地帯 細井謙一 お好み焼きが紡ぐもの⑧

 広島経済大学地域経済研究所の調査では、コロナ禍直後の2020年4月の広島市のお好み焼き店の売り上げは、コロナ前の前年同月比で56・70%まで落ち込んだ。

 エリア別にみると、広島市中区の店舗の売り上げは20年4月時点で前年同月比47・85%と中区以外の59・27%を大きく下回っていた。これは中区の店舗が観光客やビジネスマンを主な顧客層としていたためだと考えられる。ところが、行動制限が解除され、観光客などが動き始めた22年8月になると、中区以外が19年同月比で79・21%なのに対し、中区が82・63%と逆転し、再び活況を取り戻している。

 コロナ禍は何とか乗り越えたものの、新たな課題も生じている。物価高だ。原材料価格の高騰はもちろん、人件費も、光熱費も上がっている。ウクライナ紛争や異常気象も原因となっており、この物価高が容易に解決するとは考えにくい。もはやお好み焼きの値上げは避けられず、値上げをどう納得してもらうかが焦点になってきている。値上げに見合った美味(おい)しいものを提供しようとさまざまな努力が行われている。

 こうした工夫は、お好み焼きのレベルを押し上げていく。素材の持ち味を引き出す基本スキルを徹底的に磨く店、これまで見たことのないようなクリエーティブなお好み焼きを出す店。さまざまなお好み焼きが登場し、広島の食文化を豊かにしていく。G7サミットで広島に集った多くの人たちが舌鼓を打ったのは、そんな広島の新たな姿を象徴する新たなソウルフードだったのだ。(広島経済大教授=広島市)=おわり

(2023年6月20日朝刊掲載)

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