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社説・コラム

『想』 黒瀬真一郎(くろせしんいちろう) 平和は翼に乗って

 2013年9月、ハワイ真珠湾にあるアリゾナ記念館に、「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんが折った折り鶴1羽が兄の雅弘さんによって寄贈され、展示されました。太平洋戦争開戦の地に、なぜ「サダコの折り鶴」の展示が実現したのでしょうか。

 きっかけは07年、原爆投下を決定したトルーマン大統領の孫クリフトン・トルーマン・ダニエルさんが広島を訪れたことに始まります。ダニエルさんは原爆資料館を見学して被爆者と会い、広島女学院大であったシンポジウムに出席しました。資料館の展示物に心を動かされたダニエルさんは帰国後、知人のアリゾナ記念館学芸員に折り鶴の展示を働きかけたのです。

 この出来事をきっかけに「サダコの折り鶴」を題材としたミュージカルが生まれました。ホノルル本派本願寺ハワイ別院が15年、125周年記念事業の一環として、禎子さんを主人公としたミュージカル「平和は翼に乗って~Peace On Your Wings」を制作したのです。

 病気が治ることを祈って鶴を折り続けた禎子さんとその同級生たちの友情物語で、ホノルルの小中高校生が出演しています。ロサンゼルス、ニューヨーク、サンフランシスコなど米国本土で上演を続け、平和の尊さを伝え続けてきました。

 私は、19年末にホノルルを訪れた際、作曲を手がけた日系4世のジェニファー・タイラさんと、作詞のローリー・ルビンさんに面会し、ヒロシマへの思いを聞かせてもらいました。そして2人から「子どもたちを広島に連れて行き上演させたい」という要請を受けたのです。

 20年に実行委員会を立ち上げ、広島公演を計画しましたが、新型コロナウイルス禍で断念。仕切り直して今年9月2、3日にJMSアステールプラザで上演することになりました。

 予断を許さない世界情勢にあって、次代を担うハワイと広島の子どもたちが、ともに平和について考え、思いを共有する場になればと願っています。 (広島平和ミュージカル2023実行委員長)

(2023年6月23日朝刊セレクト掲載)

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