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川野徳幸・広島大平和センター長に聞く 市民、意味問う議論を 平和公園とパールハーバー国立公園 協定

 米軍による原爆投下で壊滅したデルタ中心街に造られた平和記念公園(広島市中区)と、旧日本軍による真珠湾攻撃の犠牲者を悼む碑がある米ハワイのパールハーバー国立記念公園。両者が姉妹公園協定を締結すると、広島市が発表した。被爆地の私たちはどう受け止めるべきか。広島大平和センターの川野徳幸センター長(原爆・被曝(ひばく)研究、平和学)に聞いた。(森田裕美)

 この件にメリットがあるとすれば、戦争の加害と被害をそれぞれのサイドから提示し、考えるきっかけになるという点だろう。

 ただこの件を知ったとき、違和感があった。旧日本軍による真珠湾攻撃と米軍の広島への原爆投下が、同一線上で語られているからだ。広島市は今回の締結について「戦争の始まりと終焉(しゅうえん)に関係する両公園の提携は、過去の悲しみを耐えて憎しみを乗り越え、未来志向で平和と和解の架け橋の役割を果たす」としている。真珠湾が戦争の始まりでその帰結がヒロシマだとすれば、原爆を落とされたのは「因果応報」で「正しかった」とされかねない。被爆地が「原爆投下が終戦を早めた」という米国の言い分にお墨付きを与えたかのように見える。

 被爆者たちの米国に対する胸の内は今も複雑だ。謝罪を求める人もいる。未来志向というなら、戦争や原爆投下の責任の所在や、そこから派生する歴史認識の問題から目をそらすことはできない。日米だけでなく日韓や日中が抱える歴史認識の問題や自らの加害責任にも向き合う覚悟が要る。

 今後の展開で残念なことは、被爆地の市民から何も議論が起こらないことだ。なぜ協定か、この協定が被爆地にとってどんな意味を持つのか、といったもやっとした感情の先にあるものを私たちが議論し、共有できてこそ未来志向といえる。それを問わないなら「ヒロシマ」という名に恥じるのではないか。市も協定を通して何をしたいのか市民により具体的に説明する必要がある。(談)

(2023年6月25日朝刊掲載)

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