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社説・コラム

社説 ユニタール広島20年 平和貢献 さらに広く強く

 国際機関や各国政府の職員を主な対象にした人材育成機関、国連訓練調査研究所(UNITAR=ユニタール)の広島事務所開設から、7月15日で20年になる。この間、人間の安全保障や紛争後の復興などを中心にした研修を、150を超す国の6万人以上に実施してきた。

 人材育成という地道な活動を通して、重い役割を果たしてきた。研修生同士を軸に世界的なネットワークも広げている。世界平和に向けた努力をさらに拡充させていきたい。

 広島事務所は、スイス・ジュネーブの本部、米ニューヨーク事務所に続き、3番目に開設された。中四国唯一の国連機関として、広島市中区の原爆ドームに近い広島商工会議所ビルに居を構えている。

 何より被爆地にある意義は大きい。さまざまな国の人に広島を訪れてもらい、核兵器がいかに非人道的か、焼け野原からどうやって復興したのか、学ぶきっかけを与えられるからだ。

 研修では原則、原爆資料館を見学してもらうという。その積み重ねが、原爆被害はもちろん、核も戦争もない世界の実現という被爆地の訴えについて、理解を深めたり各国に広めたりすることにつながっている。

 開設当初は、復興を遂げた広島の経験を踏まえ、イラクや南スーダンといった紛争当事国や紛争を終えた国の人たちを主な対象に、平和構築や世界遺産などに関する研修を実施した。

 アフガニスタンの復興支援には初年度から力を入れていた。特筆すべきは2015、17年の研修でサッカー女子代表チームを招いたことだろう。スポーツの盛んな広島らしい試みだ。

 ただ、アフガンでは21年夏、イスラム主義組織タリバンが復権。女性の権利や自由を抑圧している。それでも参加者の視野を広げ、民主主義の種をまいた研修の意義は失われない。

 近年は、若者・女性の潜在的能力強化からビジネスまでテーマを広げている。15年度からはアジアの若手外交官が核兵器の非人道性や核軍縮を学んでいる。被爆地ならではの内容だ。

 課題もある。研修の中身が専門的過ぎて、市民と距離があることだ。広島県をはじめ年1億円もの税金を投じているだけに、活動や成果を広く知ってもらうことが欠かせない。

 市民との距離を縮める努力は重ねている。例えば親善大使。15年から1年間は元広島東洋カープ投手の黒田博樹さん、今は地元出身の元陸上選手、為末大さんを起用し、広報活動に無償で協力してもらっている。

 19年には広島事務所を支える民間組織が発足した。賛同する企業や市民でつくる国連ユニタール協会である。ウクライナ支援などを展開している。「わが街の国連」として、ユニタールに親しみを持ってもらえるよう一層の取り組みが求められる。

 人種や経済格差、ジェンダー差別など、平和の実現を妨げている問題は多種多様だ。国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)にも重なっている。しかし被爆地は核兵器の問題にだけ目を向けがちだ。そうした広島の足らざる部分をユニタールの活動が補ってくれている。

 広島事務所の活動も含めて、平和な国際社会づくりに向けた被爆地からの発信を多彩に、強くしていかねばならない。

(2023年6月28日朝刊掲載)

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