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「核や戦争被害 自分のこととして捉えて」 大学4年奥川さん 福竜丸展示館(東京)で実習

広島での平和学習 原点

 広島市で幼少期を過ごした東京学芸大4年の奥川稀理さん(21)=さいたま市=が、東京都江東区の第五福竜丸展示館で博物館実習に打ち込んでいる。米国の水爆実験で被曝(ひばく)した日本のマグロ漁船を陳列する同館で5月から修学旅行生などに対応。「核兵器や戦争被害は人ごとではなく、被爆者に対する差別など現代にもつながる問題。自分のこととして捉えてほしい」との考えを強めている。

 奥川さんは生後間もなくから小学2年の5月まで広島市で暮らした。幼稚園では原爆資料館(中区)で黒焦げになった弁当や三輪車、被爆者の姿を再現した人形を見た。進学した東区の牛田小でも8月6日は「登校して原爆の話を聞く特別な日」。しかし、さいたま市で迎えた最初の8月6日は夏休みのありふれた一日で、同級生と原爆の話をすることもなく「驚いた」と振り返る。

 「広島だけの問題ではないのに」。中学、高校とさいたま市で過ごすうちに、その思いは募る。「先生になって伝えたい」と東京学芸大教育学部へ進む。学外でもナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)をテーマにしたオンラインイベントに参加し、巡回展も企画。さらに学びを深めたいと学芸員資格を目指すようになった。

 1954年に中部太平洋マーシャル諸島ビキニ環礁での水爆実験に巻き込まれた第五福竜丸。展示館での実習は同館学芸員の市田真理さんたちが編んだ書籍がきっかけ。市田さんがつづった「来館者が実際の船を見て世界の核状況に思いを巡らせ、新たな知見を得て未来を紡いでいく」との内容に共感し、申し込んだ。展示館ガイドへの同行に加え、資料のデジタル化にも取り組んでいる。

 実習は7月2日に終わる。核や戦争について「考える人を増やし、つなげていく」ために学び続ける覚悟だ。8月にはドイツに留学する。(山崎亮)

(2023年6月29日朝刊掲載)

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