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社説・コラム

『書評』 郷土の本 切り開いた画境 丸木俊の人生記

 原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)の岡村幸宣学芸員が、「丸木俊 『原爆の図』を描き世界に戦争を伝える」を刊行した。小学校中学年以上を対象にした伝記シリーズの一冊。女性洋画家として新たな地平を切り開いた丸木俊の人生を、軟らかな文章で描き出す。

 1912年、北海道秩父別町の貧しい寺に生まれた俊は、幼少期から絵が得意で、苦学して東京の美術学校を卒業した。小学校の教員などを経て、南洋群島に半年間滞在。自然の中でたくましく生きる人々を描いた。帰国後、水墨画家の丸木位里と結婚。45年8月6日、位里の故郷である広島に「新型爆弾が落とされた」とのニュースを聞き、当時住んでいた埼玉から広島へと向かう。

 「きずついた人たちのいたみを伝えたい」「原爆の悲しみを伝える絵は、何よりもまず、力づよく美しい芸術でなくてはならない」。位里と合作した「原爆の図」へと至る心情を細やかにつづる。床に広げた紙に俊が人物を描き、位里が墨を流す―。2人の表現がぶつかり合う制作シーンは臨場感に満ちる。

 岡村学芸員は「戦争がいつまでもなくならない中で、未来を担う子どもたちに俊の絵画に出合ってほしいと願いつつ執筆した。幅広い年齢層に読んでいただきたい」と話す。

 あかね書房。1650円。(西村文)

(2023年7月2日朝刊掲載)

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